2013年03月のエントリー一覧
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46.密息
ぼくの口はとんがっている。身体はぐんと前のめり。肩に力が入っている。ぼくは今だって緊張しぃだが、昔はもっとガチガチだった。過去に遡れば遡るほど、その傾向は見て取れる。高座写真は色んなことを教えてくれる。ぼくは、昔よりも今の方が、ずっと若く見えると他人によく言われる。それはストレス等々、精神的な問題もあるだろうが、おそらく身体や息の使い方が一番大きい。ぼくが狂言の稽古を始めたのは、発声におけるコンプ...
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45.月見座頭
落語は、喜劇である。喜劇とは、人の愚かさを描いたものである。ただ滑稽なものは喜劇とは言わない。それは、笑劇(ファース)という言葉で区別されている。当事者にとっての悲劇が、第三者からは喜劇と映ることがある。男と女の諍いが当人たちにとって悲劇であったにせよ、周りからは喜劇として捉えられることもある。喜劇か悲劇か、それはその事件に対するそれぞれの立ち位置いかんである。喜劇は滑稽に描かれたもので、悲劇は哀...
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44.シンディ・ローパー
第二次大戦中、食べるものがなく飢えている弟に向かい、姉はこう言った。「ねえ、何が食べたい?いちばん食べたいものは何?」二人は笑いながらおいしいものを次々とあげた。「そんなに食べたら、おなかこわしちゃうわね」弟はおどけて、でんぐり返しをして見せた。おなかがいっぱいで、もう大丈夫だというように。今はもう、勇気づけのために架空のメニューなど作る必要のない時代。では、精神的にはどうでしょう。1993年、オノヨ...
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43.心身一如
大阪ミナミのバー「苺」で開催される月に一度の勉強会。今回の講師は、中医学鍼灸院・院長の神野英明先生。定員は椅子の数だけ。13名。「心身一如」身体に起こるいろいろな病気は、心の使い方が誘因になっていると、「東洋医学」ではそう考えるのです。腰痛や膝痛は、感情と関係している。身体の上半身の体重は、腰だけではなく、身体の前のお腹でも支えている。腹の筋肉が弱ると、腰の筋肉への負担が増えて、身体のアンバランスが...
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42.妄想福井
落語を通して街づくりを考えよう。福井・片町の料亭「寿ずや」は、市民や学生ら約30人が集まった。人と人との交わりが、活気を生み出す原動力になる。落語世界の理想的コミュニティーに学ぼうというのが今回の企画。題して『福井むかし語り』。ぼくの演目は、『牛褒め』と『豊竹屋』の二席。『牛褒め』における阿呆に対しての「しゃあないやっちゃなあ」という眼差し。「狂言は、愚かな人間を描いているのではなく、人間の愚かさを...
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41.風の丘を越えて
恨(ハン)を積むとは生きること。生きるとは、恨を積むこと。お前は肉親を失ったうえに光まで失った。人一倍、恨が鬱積しているはずだが何故声に出ない。お前の声は美しいだけで、恨がない。父は娘にそう語った。二人は、親子とはいえ娘は養女で二人は血が繋がっているわけではない。孤児だった娘にパンソリを仕込もうと男が引き取った。辛く貧しい放浪の旅である。芸の道は険しい。しかし、芸のために、何も娘の光まで奪うことも...
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40.要素・機能・属性
このブログの読者には、春からの講義に備えて、シラバスとにらめっこしながらご覧になっている方もおられるかと思います。この春、タレント養成学校の教務の方から打診されたのは、例えば、『笑点』のような大喜利ワークのようなものはできないでしょうか?という内容でした。そこで、ぼくの考えを少し述べてみたいと思います。まず、ぼくの授業は、落語家としてこれまで学んできたものを中心にお届けしていきます。それに加え、最...
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39.大根役者の蘇生法
狂言の台詞回しには、俗に二字上がりと呼ばれる特徴がある。前項に紹介した「叩き」は、俳優養成学校の授業でも用いている。でも、最初は学生たちも、なかなかこの咄のリズムには乗れず難渋する。そんな時、この狂言台詞を間に放り込みながら並行して稽古を進める。これは経験上、効果抜群である。例えば、「これはこのあたりにすまいいたすものでござる」という台詞であれば,赤い文字のところで台詞に強弱をつけながら発声するの...
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38.話し言葉の句読点
ここにござりました大阪のうまの合いました二人の男●ボチボチ時候も良うなったさかいにお伊勢参りでもしよやないかと、でも付きの伊勢参り●同道はうまの合うたる二人連れ、イヒヒンヒンと勇む旅立ち●仕度を整えますと友達に見送られ農人町の家を後に安堂寺橋を越えまして道を東へ東へ●大坂離れて早玉造●ここには桝屋芳兵衛、鶴屋秀次郎という二軒の茶店がござります●ここでちょっと酸い酒の一杯も飲みまして見送りの友達と別れます...
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37.昭和任侠伝
強かったなあ、あの時の阪神は、十一連勝! と、喜んでいたら、あと八連敗。 そこが、また阪神らしいところかねえ。 勝つ時はムチャクチャ強いけど、 肝心な時にはよう裏切られるねん。 思たら、昭和四十八年 最終戦、 巨人に勝ったら優勝やいう時に九対〇の完敗。 あの時は三日間寝込んでしもうた。あの悔しさ分かるか。 選手は替っても、ファンは死ぬまで阪神ファンやねん。 そこんとこ分か...
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36.種を運ぶ
かつて私は『ふるさときゃらばん』という劇団に客演していた。今になって思えば、まともに芝居などしたことのない私をよくぞ採用してくれたものだと思うが、それは楽しくもあり苦しくもあった。知人の紹介から私も劇団の追っかけのようなことをするようになり、それでたまたま役者の一人の都合が悪くなったことから私にお鉢が廻ってきたのだ。芝居はミュージカルである。歌は独唱がないので何とかごまかせたが、ダンスだけはどうに...
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35.カチューシャの歌
青年貴族士官のネリュードフは、小間使いのカチューシャを可愛がっていたが後になっていじめるようになった。そのためカチューシャは卑しい女となって罪を犯しシベリアに送られた。これを知ったネリュードフはそれまでの地位と富を捨てカチューシャを追って人間性復活の道を歩き始める。美しく哀れなカチューシャが高貴な青年に救われるというこの甘いロマンスが大正時代の人々の心を捉えて離さなかった。「芸術座」が世に送ったロ...
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34.師弟の親子
ぼくの落語家人生は故二代目桂春蝶宅での住み込み生活から始まった。炊事、洗濯、掃除、犬の散歩・・・師匠の身の廻り全てが内弟子の仕事である。家にいる間は奥さんが師匠のようなもので、師匠同様に奥さんにも可愛がってもらえるよう勤めることも大事。それに奥さんをしくじると師匠に余計な気苦労を与えるだけだ。奥さんにはご飯の炊き方から庖丁の使い方、掃除の仕方、着物の畳み方、挨拶の仕方、謝り方、人の話の聴き方・頷き...