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9 .なぜ落語の道を選んだか?

大宅小学校のみなさんへ(感想文へのお返事)

返事が大変遅くなってごめんなさい。
ちょうどこの返事がつく頃には、皆さんは夏休み中でしょうか?
「ようこそアーティスト とくべつ授業」では、
本当にありがとうございました。
皆さんの笑顔が私にとって何より励みになりました。

感想文も全部読ませていただきました。
こうして届けられた皆さんの作文は私の宝です。
色々悩んだすえに入った落語家の世界ですが、
こうやって楽しんでくれて、
落語家になって今、本当によかったなと思います。

皆さんは本当によく集中して聞いてくれたと思います。
これから大人に成長していくうえで、何が一番大切かと聞かれたら、
私はまず“人の話をよく聞くこと”と答えます。
“いかに話すか”ということももちろん大事ですが、
もっと大切なのは“人の話をしっかり聞くこと”です。
相手の話を聞かないと、何を話していいか分かりませんよね。
それにしっかり聞かないと、大事で大切な話も自分に入ってこない。
そういう意味でも、皆さんは素晴らしい能力を持っています。

皆さんの作文で多かったのが「初めて知った」という声。
また、それを素直に喜んでくれている。
これもとても大切なこと。
“知る喜び”は学びの原動力だと思います。
この学校で、その原動力をどんどんパワーアップさせてください。
そう思うと
学校で学ぶ国語、算数、理科、社会・・・
全てに大きな意味があるんだなぁと思います。

十年後、二十年後・・・その時に
「あの時、落語家さんがこんな事言っていたな」
と思い出してもらえたら、私としてはとっても嬉しいです。

それから、「四股踏みをしたら、お腹から声が出てびっくりした」
という声がありました。
この時、この声を支えるのが腹の底=丹田(たんでん)ですね。
人にモノを伝える時には“語気”というものが大切です。
“語気”とは、話の調子や勢いのことですね。
これは“丹田”を意識するための練習でした。

“丹田”は身体の中心です。
これは、勉強にもスポーツにも、すべて生かせると思います。

また、「相手に言葉を届けるように話すことが大事だと分かった」
という声もありました。
“言ったか、言わないか”ではなく、
相手に“届けられたかどうか”ということですよね。
そのこともちゃんと理解してもらえたようで嬉しく思います。

そうそう、質問の中に
「大阪出身ですか?大阪弁がすごいから」というのがありました。
おっしゃる通り、私は大阪生まれの大阪育ちです。
でも、落語家になった時は
ずいぶん言葉に苦労したんですよ。
それは、ちゃんとした大阪弁が喋られなかったからです。
大阪弁にも色々あって、
私たち落語家がよく使うのは「船場ことば」と言われるものです。
これは元々、京都の伏見言葉からきていて、
どこかにはんなりとした雰囲気があります。

きっと信じてもらえないかも知れないけど、
私は小学生の頃、吃音で赤面症でした。
もし吃音症の方がいたなら心配しないでください。
必ず治ります。
それだけ相手を大事に思い、
言葉を大切にしているからそうなるんだと思います。



「なぜ、落語家になったか」というご質問に
お答えしたいと思います。
私がこの世界を目指すきっかけは、小学校4年生の頃。
クラスでひらかれた“お楽しみ会”でした。
当時の私は友だちともうまくなじめず、
運動も勉強も苦手で、
例えば、クラス対抗の野球にも参加させてもらえませんでした。
そんな私が周りに初めて認めてもらえたのが“漫才”だったのです。
他のことでは負けるけど、
漫才なら勝てるかも知れないと思ってがんばりました。
やがて、高校に入り、漫才をやりたいと思っていた私に
上級生が落語をすすめてきました。
「漫才は二人やけど、落語は一人でもできるよ」って。
でも、その時は落語のことなど全く知らず、
むつかしいものだと勝手に決めつけていました。
それから最初はむりやり落語を聞かされて・・・
でも、それがあって今の自分があります。

落語家になるには、師匠と呼ばれる先生のところに弟子入りします。
師匠の身のまわりのお世話をしながら、師匠から芸を盗みます。
“芸を盗む”とは、師匠の芸を横でみながら
自分で感じながら取っていくことです。
手取り足取りというのではありません。
そして、人知れず稽古を重ねます。
落語家になるために必要な才能をひとつあげなさいと言われたら、
私はまず“継続”と答えます。

また、私は“落語家やめたい”と思ったことは一度もありません。
なぜなら、“つらいことはバネになる”
“しんどいことは、そのぶん全部に喜びに変えられる”
ということを学校で学んだからです。

皆さんは、これからも多くのことを学ぶことになります。
最初にも言いましたが、皆さんは“知る喜び”を知っています。
それに、むつかしいことほど分かった時の喜びは大きいものです。
きっと、もう経験済みですよね。
どうかこれからも大宅小学校の先生と共に
学びの喜びをますます充実させていってください。

最後に、落語家として一番大事にしていることを言います。
それは“何を笑うか”ということです。
笑いにも色々あって
いい笑いもあれば、悪い笑いもある。
悪い笑いとは、どんなものでしょうか?
これは皆さんが自分で考えてみてください。

よく“何を笑うかで、その人が分かる”と言いますが、
笑いによって、その人の人格がつくられていくのは確かです。

人間ですから、
多少のいけない笑いには目をつむりましょう。
私も反省すべきことはいくらでもあります。

でも、
落語家として、人に笑いを提供するものとして、
やっぱり一番に気をつけなければいけないなと思っています。

いつか大人になって、
もし私のことを覚えていてくれたら
ぜひ楽屋を訪ねてください。

テレビに出ることより
その方が数百倍も嬉しいものです。

では、またその日まで。
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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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