99.リアルかリズムか 繁昌亭落語家入門講座12
ダイアリー > 繁昌亭落語家入門講座 - 2013年10月20日 (日)
ナンバ高島屋の前を通るとき、
決まって立ち止まり魅いってしまう光景がある。
それは、街頭のティッシュ配りだ。
熟練した者と、そうでない者との差は歴然としてある。
この日、『繁昌亭落語家入門講座』14期が始まった。
主任講師の桂米輔師匠はこんな言葉を口にされた。
「リアルの前に、まずリズムです」

『繁昌亭落語家入門講座』14期。1回目の講座では着物の畳み方も。
神聖な高座もこの日に限ってステテコ姿が許される。
ぼくが狂言の教室に通っていた頃、
先生はとことん「謡い」の稽古にこだわっておられた。
音楽的要素の重視である。
落語にしても全く同じことだ。
織田「リズムというものも、いわく言い難いもんでしょうね」
米朝「そうでんな。これはもう、個人個人でみな違うでしょうが、
やっぱり、ある程度、ひとつのリズムがなかったら、やってられまへんで」
織田「噺ですもんね。浪曲みたいに節があるわけやないけれども……」
米朝「そうです。ないけれども、やっぱり、落語の節というものが
あるわけです」
織田「落語には落語の節が陰にはある」
米朝「はい。そやさかい、リズムと言うてもええし、
本当に落語の節と言うてもいい場合もありますな」
桂米朝・織田正吉対談『桂米朝集成 第1巻』より
リアルに演じようとするあまり、
感情過多になることは往々にしてある。
熱演=素晴らしき舞台、でないことは、
これまで観客の立場で嫌というほど経験してきたし、
ぼく自身、観客をエライ目に遭わせてきたことは否めない。
「すごい迫力でした」「熱演でした」は、
必ずしも褒め言葉であるとは限らない。
無論、「名人の熱演」は素晴らしいが、
その多くは、演者に対し言葉の掛けようがない時によく用いられる。
その言われた当人が言うのであるから間違いない。
そんなこともあって、
先日、伺った大学での講座は本当に嬉しかった。
講演が終わって質疑応答。学生からのこんな質問。
それはぼくがずっと目指し続けていることである。
「どうすれば、そんなふうに
相手を引き込むような話し方ができますか?」

『北海道情報大学』の学生たちは、最高の聞き手だった。
落語はお客を「物語世界に誘おう」という芸である。
「押しつける」のではなく、「誘う」。
米輔師匠もまた、講座のなかで度々こうおっしゃる。
「このように演じますと、
押し付けがましくなりますから」
言い過ぎ、やり過ぎは、お客の気の入る余地を減らすことにもなるし、
何より「品のなさ」にも繋がる。
ところで、ぼくが講座のなかでいつも心掛けていることがある。
「いつの間にか講演、いつの間にか落語」
「では、これから芸を演ります」的な気負った入り方が
どうにも気に入らないのだ。
とはいえ、ぼくの場合、
ややもすると、じきに「肩に力が入り込んでしまう」という悪癖がある。
ぼくがよく講座において、
「肚」「丹田」ということにばかりえらくこだわっているのは、
実はこのことがきっかけである。
「丹田」が坐っていないと、リズムもくそもない。
そういう意味においても、
継続して1回に90分という時間を与えてもらえる、
各教育機関での「落語の授業」は、それを試す絶好の機会である。
ナンバのティッシュ配りは、リズムがいい。
瞬時に相手に呼吸を合わせている。
気がつけば、ティッシュはぼくの手中にある。
「気がつけば、落語の世界に浸っていた」
そんな世界を築いてみたい。
よきリズムの上に、リアルを築いていく。
「優れた落語」には、先人たちが練り上げてきた
「相手を引き込む」ためのスキルが存分に潜んでいる。
それを習得するための第一歩が、
冒頭に紹介した、米輔師匠のあの言葉なのです。
「落語を演るようになって、
生活や人生が好転しました」
……そんな一言を講師陣は待っている。
落語はまずしっかりとしたリズム=テンポが刻めるかどうか。
早いか遅いかではなく、定まったテンポが身体に備わっているか否か。
そんなテンポの良し悪しが寄席(席)での評価にも繋がってくる。
「テンポ、分け目の席があらぁ」
桂蝶六のホームページはこちらをクリック
決まって立ち止まり魅いってしまう光景がある。
それは、街頭のティッシュ配りだ。
熟練した者と、そうでない者との差は歴然としてある。
この日、『繁昌亭落語家入門講座』14期が始まった。
主任講師の桂米輔師匠はこんな言葉を口にされた。
「リアルの前に、まずリズムです」

『繁昌亭落語家入門講座』14期。1回目の講座では着物の畳み方も。
神聖な高座もこの日に限ってステテコ姿が許される。
ぼくが狂言の教室に通っていた頃、
先生はとことん「謡い」の稽古にこだわっておられた。
音楽的要素の重視である。
落語にしても全く同じことだ。
織田「リズムというものも、いわく言い難いもんでしょうね」
米朝「そうでんな。これはもう、個人個人でみな違うでしょうが、
やっぱり、ある程度、ひとつのリズムがなかったら、やってられまへんで」
織田「噺ですもんね。浪曲みたいに節があるわけやないけれども……」
米朝「そうです。ないけれども、やっぱり、落語の節というものが
あるわけです」
織田「落語には落語の節が陰にはある」
米朝「はい。そやさかい、リズムと言うてもええし、
本当に落語の節と言うてもいい場合もありますな」
桂米朝・織田正吉対談『桂米朝集成 第1巻』より
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リアルに演じようとするあまり、
感情過多になることは往々にしてある。
熱演=素晴らしき舞台、でないことは、
これまで観客の立場で嫌というほど経験してきたし、
ぼく自身、観客をエライ目に遭わせてきたことは否めない。
「すごい迫力でした」「熱演でした」は、
必ずしも褒め言葉であるとは限らない。
無論、「名人の熱演」は素晴らしいが、
その多くは、演者に対し言葉の掛けようがない時によく用いられる。
その言われた当人が言うのであるから間違いない。
そんなこともあって、
先日、伺った大学での講座は本当に嬉しかった。
講演が終わって質疑応答。学生からのこんな質問。
それはぼくがずっと目指し続けていることである。
「どうすれば、そんなふうに
相手を引き込むような話し方ができますか?」

『北海道情報大学』の学生たちは、最高の聞き手だった。
落語はお客を「物語世界に誘おう」という芸である。
「押しつける」のではなく、「誘う」。
米輔師匠もまた、講座のなかで度々こうおっしゃる。
「このように演じますと、
押し付けがましくなりますから」
言い過ぎ、やり過ぎは、お客の気の入る余地を減らすことにもなるし、
何より「品のなさ」にも繋がる。
ところで、ぼくが講座のなかでいつも心掛けていることがある。
「いつの間にか講演、いつの間にか落語」
「では、これから芸を演ります」的な気負った入り方が
どうにも気に入らないのだ。
とはいえ、ぼくの場合、
ややもすると、じきに「肩に力が入り込んでしまう」という悪癖がある。
ぼくがよく講座において、
「肚」「丹田」ということにばかりえらくこだわっているのは、
実はこのことがきっかけである。
「丹田」が坐っていないと、リズムもくそもない。
そういう意味においても、
継続して1回に90分という時間を与えてもらえる、
各教育機関での「落語の授業」は、それを試す絶好の機会である。
ナンバのティッシュ配りは、リズムがいい。
瞬時に相手に呼吸を合わせている。
気がつけば、ティッシュはぼくの手中にある。
「気がつけば、落語の世界に浸っていた」
そんな世界を築いてみたい。
よきリズムの上に、リアルを築いていく。
「優れた落語」には、先人たちが練り上げてきた
「相手を引き込む」ためのスキルが存分に潜んでいる。
それを習得するための第一歩が、
冒頭に紹介した、米輔師匠のあの言葉なのです。
「落語を演るようになって、
生活や人生が好転しました」
……そんな一言を講師陣は待っている。
落語はまずしっかりとしたリズム=テンポが刻めるかどうか。
早いか遅いかではなく、定まったテンポが身体に備わっているか否か。
そんなテンポの良し悪しが寄席(席)での評価にも繋がってくる。
「テンポ、分け目の席があらぁ」
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