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101.授業という名の井戸端会議~「教える」から「教わる」へ~

「たたき売りちゅうのん、見んようになったなあ」

「昔な、天王寺公園で蛇使いをよう見たでえ」

「覗きからくりなあ、あれ、金を払わんと勝手に覗いたら、
 おっちゃんに棒でしばかれるねん」

「おばちゃんがなあ、スカートめくって中見せよんねん。
 マッチの灯りでなあ、マッチ一本いくらっちゅうやっちゃ」

「それ、泣き売(なきばい)、ちいまんのん?・・・・・・うん、路上で万年筆売ってたで」

「その催眠商法ちゅうのんなあ、わて中に入ったことあるでえ。
 いろんなもんタダでくれるねん。商品、買うたてか?
 ・・・・・・買うかいな、そんなもん!」



この日の授業は「大道商売」がテーマだった。
10代の若者から70代のアボジやオモニたちが集う夜間高校。

で、この後、落語『蝦蟇の油』をぼくが演じた。
ここでは井戸端会議そのものが咄のマクラ。
このところ、ぼくの授業はいつもこんな感じだ。

さすがお爺ちゃん学生の話には説得力がある。
ぼくの授業に退屈したのか、
さきほどまで寝むりこけていた若者も起き出してきた。


ぼくが話すより、
よほど授業は充実する。


桃谷高校授業風景


この学校で講師を勤めるようになってかれこれ12年。
当初は何を教えたらいいものかと毎回のように頭を悩ませていた。
「落語」を中心にした「芸能」の授業ということになるが、
さて、その蘊蓄が何の役に立とうかという戸惑いが先にあった。
そのうちに知識ばかりを教えようとするからいけないのだと気付いた。

芸能の歴史やその時代背景を学ぶことが無意味だとは言わない。しかし、
そこから何かを考察するというところにこそ意義がある。


例えば、「藤戸」というお話。
これは、以前、狂言の先生に学んだ。

時代は源平合戦である。
瀬戸内海に浮かぶ小島を眺めながら
源氏の武将・佐々木盛綱は地団駄踏んでいた。
向こうでは平家が優雅に音曲を愉しんでいる。
すぐにでも攻め入りたいが盛綱勢の舟は全て平家に取られていた。
とその時、盛綱の前に一人の漁師が現れた。
舟が無くても渡れる場所があると言う。

さっそくそこを教えてもらった盛綱だったが、
無残にも盛綱はその漁師を斬り捨ててしまった。
何故ならこの漁師が同じ源氏の他の大将にも
このことを告げる可能性があったからだ。
戦に勝ってその地を治める権利など
大きな褒美に預かれるのは一番手のみである。

盛綱は思った。

「もし他の誰かに一番乗りされてしまったらこの地は手に入らない。
 俺には家来がいる。その家来には家族がいる。
 俺は、その家来と家族らを守る責任がある。
 だから、この漁師を斬るのは致し方ない」


さて、こんな史実も能と歌舞伎では描かれ方が180度も違う。
「能」であれば、漁師とその母親が主人公となり、
武将である佐々木盛綱は悪者として描かれる。
一方、「歌舞伎」となると、佐々木盛綱は一転してヒーローである。



「能」は弱者の立場から描いているのに対し、
「歌舞伎」では強者
すなわち武士の立場からである。



・・・・・・ぼくが学生に伝えたのはここまでだった。

佐々木盛綱の像

能では悪者の盛綱も、歌舞伎では一転してヒーローとなる。



「そら、江戸時代は何ちゅうても、封建社会やさかいなあ」

「家族を守るために少々手を汚すぐらいのことは分からんことはない」

「あたしら、ずっと漁師の立場やで」。


・・・・・・皆が口々に意見を述べ始めた。

「プロパガンダ」ということを知るいい機会になったし、
「見方が変われば世界が変わる」ということにも繋がった。


結論は、
できることなら相手に委ねるのがいい。



……ぼくの授業は幸いにして決まったカリキュラムというものがない。
ぼくは何よりまず「学び」の楽しさを知ってもらいたいと思った。
「学ぶ」楽しさは、自ら「考える」という過程を伴ってこそ。
そこで、一方通行にならない工夫として第一に自分が変わるべきと思った。
今、ぼくはおおいに授業を楽しんでいる。
ここでぼくが得たものは、自身にとってとても大きなものとなった。

つまり、それは

「教える」から
「教わる」への「モードの着替え」である。



追伸:ぼくが夜間高校の教壇に立つようになって、
最も影響を受けた一冊を紹介しておきたい。「オモニの歌」。
アマゾンにも在庫があるようだが、実はこの本をぼくは大量に譲り受けた。今、数えたら25冊もあった。
作者にずっと師事していた現・府立桃谷高校の教員から譲り受けたものである。
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「桂蝶六にインタビュー」の記事はこちら


相手を意識しつつ、一方的にならず。

「相手へ授業」

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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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