107.督促に学ぶ落語の効用~”督促OL修行日記”から~
最近読んだ『督促OL修行日記』が面白かった。
著者は支払い延滞顧客への督促を行うコールセンターで
働いている。今、300人のオペレーターを指示する立場にいる。
人間の脳は疑問を投げかけられると、
無意識にその回答を考えはじめる。
「お金を返してください」とこちらの要求を押しつけても、
相手の反対や怒りを誘う。
だったら「入金できる日はいつ?」という質問を投げかけて、
脳に回答を考えてもらうようにすれば、罵倒されずにすむ。
「お客さま、いつでしたら
ご入金いただくことが可能でしょうか?」
「お金を返してほしい」と
ストレートに聞くのは角が立つけど、
これなら相手に嫌な思いをさせずに
お金を回収することができる。
(本文より)
うちの師匠(故・二代目桂春蝶)も、弟子に対しては、
自分で考えさせて、それから回答を得るというタイプだった。
すでに自分のしくじりを悟っているぼくは、
怯えながら師匠の言葉を待った。
「おい、分かってるやろな」
「はい」
「何が分かってるんや」
「あの、○○○があかんかったと思います」
「ほいで」
「△△△も・・・・・・」
「ふむ・・・ほいで」
「◇◇◇も」
「それは知らんだなあ」
(あ、余計なことまで言ってしまった)と悔やむぼくに、
「で、どうすんねん?」
「はい、これからは・・・・・・」
反省の弁を述べるぼく。
そして、師匠は最後にこう言い放ち、立ち去っていく。
「まあ、そういうこっちゃ。次はないで」
こ、怖い~~~
師匠の説教はいつもこんな感じ。
「おい、分かってるやろな」「ほいで?」
「まあ、そういうこっちゃ」「次はないで」
たった四つのフレーズのみである。
くどくどと叱ることなどまずなかった。
肝心なことは、自身の頭で考えさせ、
自分でちゃんと結論を述べさせる。
一方的に投げられた言葉は、
ついウザイと思ってしまいがちである。
落語もまた喋り過ぎてはいけない。
情報が多すぎると、お客が想像する余地が減ってしまう。
一方的ではなく、一緒につくっていくからこそ、
落語の世界は面白い。
「お客と演者の共同作業」とはよく言ったものだ。
一方的な督促は、罵声を招くし、
独りよがりな落語は、お客を置いてきぼりにする。
それにしても
師匠の叱り方と”督促ガール”の手法はよく似ている。
師匠は落語家になる前、
銀行員であったということも関係しているのだろうか?
・・・・・・”督促ガール”は怒鳴られてばかりの毎日だ。
「怒鳴られたショックで固まるのを防げないだろうか」
そんな時、彼女はたまたまある一冊を手にした。
動物学者デズモンド・モリスの言葉が目に入った。
「下肢には本当の気分が表れやすい。
不安な人は足が落ち着かないし、
足を拡げている人は偉そうな印象になる」
この一言から、彼女はこう考えた。
「足を整えることで心も整えることができるんじゃないかしら」
お客さんとの間にクレームを起こしたり、
相手に言い負けてしまうオペレーターさんは、
足元が落ち着いていないことが多い。
足をぶらぶらと浮かせていたり、
足を組んだりしているオペレーターさんは、
トラブルを起こす可能性が高かった。(本文より)
身体性と人格というものはおおいに関連している。
●町内のご隠居さんは、掌を膝の中程に置き、腰骨はやや倒し気味。
●阿呆の喜六は、やや前屈みになり、手も膝の間接近く。
●武士は、腰骨を立て、手も足の付け根あたりに置く。
身体の「型」だけで人物が表現できてしまうわけだし、
逆に言えば、その人物を表現することでその人格に近づける。
人を使う人は、
落語に登場する大店の旦さんを
もっと見習っていいかもしれない。
身体の在り方、息の置きどころ、言葉の置き方・・・・・・
それに、落語は「正坐」という形でもって、
下半身が安定しているからこそ成り立っている芸だ。
ちょっと前の記事ですが、正坐についての考察を以下にまとめてみました。
クリック→→興味のある方はこちらも是非。
密息について
態は口ほどにモノを言い
四股踏みレッスン

大阪青山大学で「落語の授業」を始めて5年。学生たちは保育士を目指している。
彼らの落語発表の場に保育園がある。この日、授業では見せなかった底力を見せてくれた。
園児たちはおおいに沸いた。お母さん方は子どもの反応に嬉しそうだった。
落語における「型」を、
落語家以外の方々がどのように生かせばいいか。
この春から学校の授業が始まる。
さて、保育士の卵たちには落語の何を処方してみようか。
蝶六主宰の落語教室『愚か塾』はこちらをクリック
著者は支払い延滞顧客への督促を行うコールセンターで
働いている。今、300人のオペレーターを指示する立場にいる。
人間の脳は疑問を投げかけられると、
無意識にその回答を考えはじめる。
「お金を返してください」とこちらの要求を押しつけても、
相手の反対や怒りを誘う。
だったら「入金できる日はいつ?」という質問を投げかけて、
脳に回答を考えてもらうようにすれば、罵倒されずにすむ。
「お客さま、いつでしたら
ご入金いただくことが可能でしょうか?」
「お金を返してほしい」と
ストレートに聞くのは角が立つけど、
これなら相手に嫌な思いをさせずに
お金を回収することができる。
(本文より)
![]() | 督促OL 修行日記 (2012/09/22) 榎本 まみ 商品詳細を見る |
うちの師匠(故・二代目桂春蝶)も、弟子に対しては、
自分で考えさせて、それから回答を得るというタイプだった。
すでに自分のしくじりを悟っているぼくは、
怯えながら師匠の言葉を待った。
「おい、分かってるやろな」
「はい」
「何が分かってるんや」
「あの、○○○があかんかったと思います」
「ほいで」
「△△△も・・・・・・」
「ふむ・・・ほいで」
「◇◇◇も」
「それは知らんだなあ」
(あ、余計なことまで言ってしまった)と悔やむぼくに、
「で、どうすんねん?」
「はい、これからは・・・・・・」
反省の弁を述べるぼく。
そして、師匠は最後にこう言い放ち、立ち去っていく。
「まあ、そういうこっちゃ。次はないで」
こ、怖い~~~
師匠の説教はいつもこんな感じ。
「おい、分かってるやろな」「ほいで?」
「まあ、そういうこっちゃ」「次はないで」
たった四つのフレーズのみである。
くどくどと叱ることなどまずなかった。
肝心なことは、自身の頭で考えさせ、
自分でちゃんと結論を述べさせる。
一方的に投げられた言葉は、
ついウザイと思ってしまいがちである。
落語もまた喋り過ぎてはいけない。
情報が多すぎると、お客が想像する余地が減ってしまう。
一方的ではなく、一緒につくっていくからこそ、
落語の世界は面白い。
「お客と演者の共同作業」とはよく言ったものだ。
一方的な督促は、罵声を招くし、
独りよがりな落語は、お客を置いてきぼりにする。
それにしても
師匠の叱り方と”督促ガール”の手法はよく似ている。
師匠は落語家になる前、
銀行員であったということも関係しているのだろうか?
・・・・・・”督促ガール”は怒鳴られてばかりの毎日だ。
「怒鳴られたショックで固まるのを防げないだろうか」
そんな時、彼女はたまたまある一冊を手にした。
動物学者デズモンド・モリスの言葉が目に入った。
「下肢には本当の気分が表れやすい。
不安な人は足が落ち着かないし、
足を拡げている人は偉そうな印象になる」
この一言から、彼女はこう考えた。
「足を整えることで心も整えることができるんじゃないかしら」
お客さんとの間にクレームを起こしたり、
相手に言い負けてしまうオペレーターさんは、
足元が落ち着いていないことが多い。
足をぶらぶらと浮かせていたり、
足を組んだりしているオペレーターさんは、
トラブルを起こす可能性が高かった。(本文より)
身体性と人格というものはおおいに関連している。
●町内のご隠居さんは、掌を膝の中程に置き、腰骨はやや倒し気味。
●阿呆の喜六は、やや前屈みになり、手も膝の間接近く。
●武士は、腰骨を立て、手も足の付け根あたりに置く。
身体の「型」だけで人物が表現できてしまうわけだし、
逆に言えば、その人物を表現することでその人格に近づける。
人を使う人は、
落語に登場する大店の旦さんを
もっと見習っていいかもしれない。
身体の在り方、息の置きどころ、言葉の置き方・・・・・・
それに、落語は「正坐」という形でもって、
下半身が安定しているからこそ成り立っている芸だ。
ちょっと前の記事ですが、正坐についての考察を以下にまとめてみました。
クリック→→興味のある方はこちらも是非。
密息について
態は口ほどにモノを言い
四股踏みレッスン

大阪青山大学で「落語の授業」を始めて5年。学生たちは保育士を目指している。
彼らの落語発表の場に保育園がある。この日、授業では見せなかった底力を見せてくれた。
園児たちはおおいに沸いた。お母さん方は子どもの反応に嬉しそうだった。
落語における「型」を、
落語家以外の方々がどのように生かせばいいか。
この春から学校の授業が始まる。
さて、保育士の卵たちには落語の何を処方してみようか。
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