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113.会社に入ったら三年間は「はい」と答えなさい

「お前、今日からわしの弟子や」
「は、はい。ありがとうございます」。

入門初日はこんな会話から始まった。


相原正明先生、袖から蝶六2
Photo by Masaaki Aihara

フォトブログ 写真家 相原正明先生の見た桂蝶六

最初の半年間は師匠の家に通いだった。
朝9時に師匠宅に伺い、
一日師匠の家で過ごして帰るという日々が続いた。
炊事、掃除、犬の世話、買い物・・・・・・

師匠の側にいるということが
何よりの修行だった。


破門にされるんじゃないだろうか。
ぼくはいつもそんな不安を抱えていた。


最初の頃、師匠がぼくを叱ることはまずなかった。
師弟とはいえ他人のような余所余所しさが流れていた。

師匠の家には時折兄弟子たちが顔を覗かせた。
そこには親子のような会話があった。楽しそうだった。
兄弟子をうんと叱りつけることもあった。

叱ってもらえないぼくはまだ弟子として認められていない。
ぼくはその頃、そんな寂しさを抱えていた。

そんなある時、ぼくにもとうとう師匠の雷が落ちる日がやってきた。
「す、すみません!」。
それに対して師匠はこうおっしゃった。

「怒られて笑ってる奴があるか、あほんだら!」

ぼくはその時、嬉しさのあまり満面の笑顔になっていた。
それから何年も側にいるうち、
師匠が沸点に達するポイントも徐々に分かってきた。
しかし晩年に近づくにつれ師匠の沸点もずいぶん下がってきた。

晩年の師匠との会話。
「師匠はめっきり怒らんようにならはりました」
「あのなあ、叱るんはすごいエネルギーが要るんやで」。


ところで先日、知人が『会社に入ったら三年間は「はい」と答えなさい』という本を出した。

会社に入ったら三年間ははいと答えなさい400

この本のなかにこんな件があった。
 
「怒られるというのは期待されている証拠だし、あなたが
変わると思われているから周りの人は怒ってくれるのだ
(中略)だから僕のおすすめは『ばかやろう』と言われた
ら、すかさず『ありがとうございます』と返事をすること
だ」


この本は年収一億のトップサラリーマンやベンチャー起業を
実現するための内容ではく、
社会人のスタートを
中小企業から始める方へのメッセージだ。
ぼくはこの本のこの件を読んで師匠と過ごしたあの頃を思い出した。
また、この本にはこうも書かれていた。


「たとえ理不尽だったとしても師匠の言うことには『はい』
という姿勢を持つこと。最初は師匠の言うことが分からな
くとも、そうすることで師匠の目線に立つことができ、そ
れで初めて師匠の言っていた意味が分かってくる。自分の
考えばかりを主張したり、反論ばかりしているといつまで
経っても師匠の目線に立てないため成長が遅れてしまう」。


はいと答えなさい、世話になった
このなかにぼくの本名(森隆久)もある。園部さん、ありがとう。

ちなみに落語家のお稽古は「口写し」という方法である。
これは稽古をつけてくれる師匠を
息遣いまでそっくりそのままに真似るということだが、
ぼくは兄弟子に稽古をつけてもらっていて随分叱られたことがある。

「お前はわしを獲る気がないやろ?
稽古をつけてくれる相手を
全部飲み込むつもりで稽古せんかい。
ええとこ獲りしよなんて早すぎるわ。
全部飲み込んで、とことん真似して、
それでもどうしても、
真似しきれんところが出てくる。
それが個性ちゅうもんや」。


相原正明先生、袖から蝶六1
Photo by Masaaki Aihara


個性は作るものではない。
滲み出てくるものである。


ぼくはこの兄弟子から教わった。



修行に関して芸人や職人のみならず、
要は、どんな世界でも基本は同じことなんだなあ。

なかには「そんなことは今さら言われなくても分かってる」
という方もおられるかも知れない。

あ、そう言えば、ぼくはある方にこんなことを言われた。

「当たり前が
当たり前でなくなってきた今だからこそ
当たり前が武器になるんやで」。




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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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