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115.再開「落語と狂言の会」

ぼくが公演として狂言を演じるのは、実に3年ぶりのことであった。
「ぼくもこういう形での狂言公演はそれぐらいになるかなあ」と彼。
写真は、先日、京都・六孫王神社において開かれた「落語と狂言の会」の模様である。
(撮影:相原正明)

狂言 寝音曲 袴


落語家のぼくが何故「狂言」の稽古を始めるようになったのか?
それは後に狂言の師となる先生から頂いたこんな言葉がきっかけだった。
あるコラボレーションイベントでの一コマである。

「蝶六君、君は少し発声の仕方を考えた方がいい」

以前から、甲高く喉を絞ったような発声は周囲からも指摘されていた。
でも、具体的にどうすればいいのか分からなくずっとそのままでいた。

「一度、稽古場に来られませんか」

実にありがたいお言葉だった。
ぼくが狂言稽古を始めるようになったのは、そのおよそひと月後のことだった。

「天に昇る声と、地を這う声」

おおざっぱに申し上げると、
教会に響く歌声は前者であり、お寺には後者の声が合う。
日本の古典芸能はすべからく後者が基本だということがいえる。

ぼくは、その「地を這う声」を身につけるため、
まずは「謡い」の稽古から入った。


ちなみに、ぼくの作文好きもこの師の影響である。

「舞台人として、ちゃんと理論武装した方がいいですよ」

その一環として、この狂言事務所では年に数回、機関誌を発行していた。
ぼくはそこで丸十年間、執筆の機会をいただいた。彼もまた同様であった。

狂言 寝音曲 金久
金久寛章

狂言 寝音曲 森 
ぼく


彼はその頃から「狂言エクササイズ」なるものを考えていた。
それが今、高校での指導など彼にとっておおいに役だっている。
ぼくもまた、ワークショップなどおおいに使わせてもらっている。

狂言 寝音曲 酒飲ませる

狂言 寝音曲 酒飲む金

金久寛章。大阪芸術大学舞台芸術学科を卒業後、劇団四季研究所を経て、大蔵流狂言師のもとで修行を重ねた。その後、故あってその師のもとを離れることになったが、バレエやそれまでの演技スキルを生かした指導を認められ、『大阪市立咲くやこの花高校演劇科』において、現在「狂言」講師として指導にあたっている。また、役者としての評価も高く、先日『兵庫芸術文化センター』で行われた舞台公演『お家さん』では主役である竹下景子さん(お家さん)の後見人役として登場、その狂言的演技でおおいにその存在感を表した。ちなみに第12回古典伝統国際演劇フェスティバルにおいては名誉ディプロマ賞を受賞している。

つまり、彼は狂言公演そのものからは遠ざかっていたものの、
高校の授業を通じて狂言とはずっと携わっていたことになる。

狂言 寝音曲 二人絡み


「金ちゃん(金久寛章)、うちの学生に狂言を見せたいんやけどな。相方はぼくになるけど、引き受けてもらえんやろか?」 

ぼくは久しぶりに狂言の稽古で汗をかいた。金ちゃんのダメ出しが続いた。
一人で演じる落語と違って、狂言は演じ手が複数。
「息」と「間」が合わなければ、
せっかくの金ちゃんの演技をぼくが潰してしまうことになる。
そんな当たり前のことを今さらながらに思ってぼくは緊張した。
それに金ちゃんはぼくと違ってかなりストイックな男である。
何度も同じ箇所を繰り返し稽古した。

大学での狂言講義が終わって、学生が言った。

「蝶六先生、ぼくね、今日はホンマにこの授業を取って良かったと思ってます」。

確かにこれまでで一番学生の食いつきの良い授業であった。
落語家として、ちょっと悔しい思いもある。

コラム:大学で狂言の授業

この授業のあと、ぼくは金ちゃんと食事に出掛けた。
石橋の『ちりとてちん』という店だった。
ここの大将と女将は、ぼくの大学落研時代の先輩で、
大将は金ちゃんにとって舞台芸術学科の大先輩でもある。

「あれ、金ちゃん、お酒飲めたっけ?」

「ええ、少しぐらいなら・・・・・・竹下景子さんに教えて頂いたんですよ」

何とも羨ましい奴だと思った。

「そういえば、あの芝居(お家さん)の時、笑い声が狂言になってたね」
「ああ、あれですか?・・・・・・演出家の先生には、もっと派手にやるようにって言われたんです・・・・・・でも、あれ以上やると不自然でしょ?」
「いやいや、ぼくはあの役柄によくあっていたなと思って」

演出は高平哲郎という先生であった。

狂言 寝音曲 舞う金久

さて、これを機に金ちゃんとぼくは、
狂言の稽古を再開させることにした。
そのモチベーションのためにもどこか定例の場所がいる。
そこで、ぼくの独演会をやってくれているところにお願いして、
「落語と狂言の会」ではどうかと打診してみた。

「うちは構いませんが、予算が・・・・・・」
「ええ、もちろん据え置きで」
「じゃあ、是非、喜んで!」

ただし、装束はないので常に「黒紋付と袴」という出で立ちになる。
「いや、蝶六さん、その方がかえっていいのかも知れませんよ」と金久。
彼は何かしら新たな活動の行方を確信しているようだ。

今も狂言の師のおっしゃった言葉が耳に残っている。

「狂言はね、日本の立派な国有財産です。
家筋とか血筋とか、そういう問題ではなくて、
この国に住む者全ての人が
もっとその恩恵に与るべきです」


ところで、今回、ここに使わせて頂いた写真は相原正明先生によるものだ。
わざわざ東京から駆けつけて下さった。

相原正明のつれづれフォトブログ


ぼくは落語家としての一余芸ということになるが、
金ちゃんの相棒として、せめて足を引っ張らないように努めたい。




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Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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