116.「ホモと落語」考
優れた俳優には
女性性格が絶対的に必要である。
高校生だったぼくは、その頃からすでに生業として芸人を目指していた。
「芸」に関するあらゆる本を手当たり次第に乱読した。
それでたどり着いたのが『私は河原乞食・考』という一冊だった。
以来、小沢先生が紹介した冒頭のこの一言がぼくのなかにずっと居座り続けた。
「女性的精神の可塑性は、他の感情表象に適応する
所のいわゆる感情移入に基づくものである。この性
格同化を招来する感情移入は、婦人の俳優的能力と
関係がある。何となればすべての俳優は他の性格を
如実に模倣するものであるが、これは感情移入なし
には不可能だからである。巧みな性格表現者、すべ
ての優れた俳優はこの能力を高度に持っていなけれ
ばならない。ゆえに優れた俳優には女性性格が絶対
的に必要である」
ハンス・アブフェルバッハ『性格構成論』
後年、ぼくが堂山や歌舞伎座裏を好んで徘徊するようになったのは、
実はこの一文ともおおいに関係があった。
おねえタレントでも知られるI氏に言わせると、
ぼくはその筋の方々からはえらくモテるらしい。
確かに、それについては心当たりがある。
でも、ぼくはやはりその気にはなれなかった。
残念ながらぼくはれっきとしたノンケである。
咄家になってある時期、幕内のなかでいちびってホモらしく振る舞い、
周囲から好奇の視線を集めつつ、それを密かに楽しんでいたことがあった。
それは、落語家の同輩の薦め?もあってのことだった。
「蝶六さんは、おネエ落語家が似合うんじゃないですか。
いっそのこと、それを売りにしてみたらどうですか?」
いちびりなぼくは、ついその助言?に乗ってしまった。
しかし、そんな戯れも別のある後輩芸人のこんな一言でジ・エンドにした。
「兄さんは、所詮、まがい物じゃないですか!」
至極当然の意見であった。彼は正真正銘の○○である。
ちなみに、芸界ではこんな格言が言い伝えられている。
「芸人はな、かいてもええが、かかれたらあかん」
説明はあえてしない。言葉の意味が分からない方は下記のブログを参照頂きたい。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13455928

撮影:相原正明
相原正明のつれづれフォトブログはこちらをクリック
一方、私は河原乞食・考 (岩波現代文庫)にはこんな記述もあった。
落語家には、ホモがいない。
もちろん、これに関して先の後輩芸人の例にあるように異論もある。
小沢昭一先生の分析はこうである。
「笑いの芸は、理性的なものと思っている。俳優の演技に
限っても、演者が、情におぼれて、主情的表現にのみたよ
っていると、笑いを触発することは出来なくなる。理性的
というと、ちょっとおもはゆいが、要するに、冷えてる部
分、さめてる部分が演者にないと、笑わせることはできな
いのである。感情移入過多は、喜劇の場合に成功しない。
だいいち、演者自体が、情的な--女性的な人間であると、
なぜか笑いものになることを拒否して、カッコイイ方に流
れるようである。どうも、笑わせる、笑われものになるこ
とは、人間の女性的要因がうけつけないらしい」
ただ、これに関しては「ホト押し開くアメノウズメ」の例を挙げ、
「もっと考察の予知あり」と先生自身も付け加えておられるが。
落語は「らしく」の芸である。
すっかり役にはまりきってしまっては、何役も演じることができない。
落語家は「らしく」演じ、最終的な像はお客に委ねる。
演者の出す言葉や所作をヒントに、お客は自分のなかに映像をつくっていく。
「落語はお客と演者の共同作業」とは、よく言ったものである。
このことは、小沢昭一先生の分析とも符合している。
全く余談だが、小沢昭一先生は桂米朝師匠と同じく、
作家で寄席研究家の正岡容先生の門弟である。
・・・・・・そんなわけで、今は「おネエことば」論を読んでいます。
近日、このブログでも紹介するつもりです。
まずは是非、『松岡正剛の千夜千冊1553夜~おネエことば論~』をご覧ください。
http://1000ya.isis.ne.jp/1553.html
桂蝶六公式サイトはこちらをクリック
女性性格が絶対的に必要である。
高校生だったぼくは、その頃からすでに生業として芸人を目指していた。
「芸」に関するあらゆる本を手当たり次第に乱読した。
それでたどり着いたのが『私は河原乞食・考』という一冊だった。
以来、小沢先生が紹介した冒頭のこの一言がぼくのなかにずっと居座り続けた。
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「女性的精神の可塑性は、他の感情表象に適応する
所のいわゆる感情移入に基づくものである。この性
格同化を招来する感情移入は、婦人の俳優的能力と
関係がある。何となればすべての俳優は他の性格を
如実に模倣するものであるが、これは感情移入なし
には不可能だからである。巧みな性格表現者、すべ
ての優れた俳優はこの能力を高度に持っていなけれ
ばならない。ゆえに優れた俳優には女性性格が絶対
的に必要である」
ハンス・アブフェルバッハ『性格構成論』
後年、ぼくが堂山や歌舞伎座裏を好んで徘徊するようになったのは、
実はこの一文ともおおいに関係があった。
おねえタレントでも知られるI氏に言わせると、
ぼくはその筋の方々からはえらくモテるらしい。
確かに、それについては心当たりがある。
でも、ぼくはやはりその気にはなれなかった。
残念ながらぼくはれっきとしたノンケである。
咄家になってある時期、幕内のなかでいちびってホモらしく振る舞い、
周囲から好奇の視線を集めつつ、それを密かに楽しんでいたことがあった。
それは、落語家の同輩の薦め?もあってのことだった。
「蝶六さんは、おネエ落語家が似合うんじゃないですか。
いっそのこと、それを売りにしてみたらどうですか?」
いちびりなぼくは、ついその助言?に乗ってしまった。
しかし、そんな戯れも別のある後輩芸人のこんな一言でジ・エンドにした。
「兄さんは、所詮、まがい物じゃないですか!」
至極当然の意見であった。彼は正真正銘の○○である。
ちなみに、芸界ではこんな格言が言い伝えられている。
「芸人はな、かいてもええが、かかれたらあかん」
説明はあえてしない。言葉の意味が分からない方は下記のブログを参照頂きたい。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q13455928

撮影:相原正明
相原正明のつれづれフォトブログはこちらをクリック
一方、私は河原乞食・考 (岩波現代文庫)にはこんな記述もあった。
落語家には、ホモがいない。
もちろん、これに関して先の後輩芸人の例にあるように異論もある。
小沢昭一先生の分析はこうである。
「笑いの芸は、理性的なものと思っている。俳優の演技に
限っても、演者が、情におぼれて、主情的表現にのみたよ
っていると、笑いを触発することは出来なくなる。理性的
というと、ちょっとおもはゆいが、要するに、冷えてる部
分、さめてる部分が演者にないと、笑わせることはできな
いのである。感情移入過多は、喜劇の場合に成功しない。
だいいち、演者自体が、情的な--女性的な人間であると、
なぜか笑いものになることを拒否して、カッコイイ方に流
れるようである。どうも、笑わせる、笑われものになるこ
とは、人間の女性的要因がうけつけないらしい」
ただ、これに関しては「ホト押し開くアメノウズメ」の例を挙げ、
「もっと考察の予知あり」と先生自身も付け加えておられるが。
落語は「らしく」の芸である。
すっかり役にはまりきってしまっては、何役も演じることができない。
落語家は「らしく」演じ、最終的な像はお客に委ねる。
演者の出す言葉や所作をヒントに、お客は自分のなかに映像をつくっていく。
「落語はお客と演者の共同作業」とは、よく言ったものである。
このことは、小沢昭一先生の分析とも符合している。
全く余談だが、小沢昭一先生は桂米朝師匠と同じく、
作家で寄席研究家の正岡容先生の門弟である。
![]() | 「おネエことば」論 (2013/12/20) クレア・マリィ 商品詳細を見る |
・・・・・・そんなわけで、今は「おネエことば」論を読んでいます。
近日、このブログでも紹介するつもりです。
まずは是非、『松岡正剛の千夜千冊1553夜~おネエことば論~』をご覧ください。
http://1000ya.isis.ne.jp/1553.html
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