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142.生まれ故郷~負の思い出より~

とよなかエッセーカラー【400】
イラスト:「広報とよなか」より

ぼくが生まれ育った町の広報課からエッセイの依頼。
故郷について語って欲しいという。
二つ返事で引き受けたものの、はたしてぼくは困ってしまった。

というのは、その町にあまりいい思い出がなかったからだ。

思い出すのは、苛められたことや自分のコンプレックスに関することばかり。
夜尿症にチックにパニック障害。
……からかわれてついカッとなったぼくは
その級友の腕に噛みついたことが一度や二度ではない。
勉強もからきしダメで掛け算の九九が覚えられずにいつも居残りさせられ、
おまけにちょっと勉強を続けただけでトイレに駆け込んでは吐いていた。
「普通の子になりたい」というのが当時のぼくの夢だった。

……パソコンを前にいざ執筆しようとすればネガティブなことばかりが蘇ってきた。


ぼくは無意識のうちにずっとこの町のことを避けていた。

ぼくは思い切って故郷を訪れてみることにした。
何かの用事で来て以来、およそ二十数年ぶりのことだった。

ぼくがこの町を離れたのは、落語家の二代目桂春蝶のもとに入門し、
師匠宅での内弟子生活を始めたからだ。
二年半の年季が明けた時分には両親は別の町へ越していたため、
以来、この町に帰ることはなくなった。


とよなか庄内駅前【400】
阪急庄内駅前。時計台も昔のまま。

……久しぶりの最寄り駅だった。
来てはいけないところへ来てしまったんじゃなかろうか。
ふとそんな気持ちに苛まれた。
しかし、それはすぐに払拭された。

駅前の時計台やコロッケの行列に並んだお肉屋さんも、
横断歩道を見下ろすパン屋の二階の喫茶店も小さな書店も、
駅前のお気に入りは全く変わりなかった。

とよなか喫茶店【400】
パン屋の二階の喫茶店がぼくのお気に入りだった。高校生の頃によく利用した。

とよなか書店【400】
高校時代に愛読した筒井康隆も、星新一も、かんべむさしも、大藪春彦も、みんなこの書店だった。
書店のおじさんに「ぼくは本好きやね」と言われて得意げになった。



地元の人なら誰もが当たり前に使っている細い路地も銭湯も然り。
確かに様相が変わったところもあるが、複雑な道は身体が覚えていた。
初恋の子の家や馴染みの駄菓子屋などは跡形もなくなっていたが、

角を曲がればやっぱり公園。

思わず笑みがこぼれた。

とよなか路地【400】


とよなか公園【400】



なかでも一番嬉しかったのは、
川沿いの土手がほとんど手入れもされずそのまま残っていたことだった。
あの頃、ぼくはこの土手を往復1時間ほどかけて毎日のように走ったものだった。
確か中学2年生の頃だった。丸一年はしっかりジョギングを続けたという記憶がある。

「俺は変わる、俺は変われる」
と、お題目のように呟きながら走った。



たとえ苦しくても「これを続けたらきっとぼくは変われる」という
何故かそんな思い込みがぼくのなかにあった。

それが功を奏したのか、いつしか勉強も好きになっていた。
夢や希望も生まれた。

とよなか天竺川(400)
ぼくが走った天竺川。


……そうか、あの頃からぼくは変わっていったんだ。
自尊心の芽生えだった。

 やがてぼくは当時通っていた小学校の前にたどり着いた。
おそらく夏祭りの準備なのだろう。
地元の大人たちが集まって何か作業を始めていた。
「地域の子どもたちのために」という思いがその様子から伝わってくる。
真っ黒に日焼けしたその笑顔を見てぼくはそう思った。

とよなか小学校【400】
ぼくの母校。豊中市立豊南小学校。
同級生に久高友男(故人)というサッカー選手がいた。ずっと練習ばかりしていた姿が懐かしい。



とよなか風呂屋【400】
湯船のなかで浪曲を唸るおっちゃんが懐かしい。
今も変わらず営業を続けているのが嬉しい。




そう言えば、あの頃ぼくが泣きじゃくっていれば
必ず声を掛けてくる大人がいた。

おもらしをして帰りづらくなって町を彷徨っていたこともあった。
苛められてこのまま帰るときっと待ち伏せされて、
また苛められるかも知れないと物陰に潜んでいたこともあった。

そんな「消えてなくなりたい」とさえ思った少年期を救ってくれたのは
紛れもなくこの町の大人たちだった。
ぼくは何度も自宅に送り届けてもらった。
「地域の子どもを見守る」という、そんな町ぐるみの伝承が今もしっかり受け継がれているのだろう。


負の思い出と共に
この町をしまい込んでいた自分が、
なんだか恥ずかしく思えてきた。
「ああ、ほおな~ん、しょお、があっこお~♪」。
校歌のサビが口をついて出た。




スキャン_20150831
字数制限に合わせ、こんな感じにまとめてみました。


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大阪青山大学の子ども教育学科で教えています。↓↓↓
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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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