155.春團治師匠のサプライズ~いたずら小僧の真骨頂~
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地下鉄の車内で
ばったりお会いすることが何度かあった。
ぼくが椅子に掛けて、下を向いて本を読んでいると、
「あのう……ひょっとして蝶六師匠と違いますか?」
お客さんかと思い、ふと顔を上げると、
そこには大きなマスク姿の春團治師匠。
「あ、どうもおはようございます」と慌てるぼく。
そんな時の春團治師匠は、
肩を少しすくめるように、
まるでいたずら小僧のような笑顔でした。
相手を驚かせたり、
サプライズが人一倍好きな方でした。
「今日はな、仕事やないさかい、無料の敬老パスやねん」
逆に、仕事の移動では、
決して、地下鉄無料パスを使わないという律義な方でもありました。

2015年4月25日・春團治法要(池田・受楽寺にて) 撮影:相原正明
ところで、それは2015年6月21日(日)のことでした。
住吉区民センターで行われた「春團治一門会」。
その日は「花團治襲名記念」と銘打っての開催でした。

トリの高座が終わって、ぼくが頭を下げていると、
「おじか~ん!」という鳴り出すはずの
追い出し太鼓が聞こえてきません。
代わりに現・春蝶くんがご陽気に飛び出してきました。
「今日は、兄さんの襲名記念ということで、
サプライズゲストにお越しいただきました!!!」

ぼくと、現・春蝶くん(右)
彼のことは、ぼくが入門して以来、小学1年の頃から知っている。
なにかよからぬいたずらでも仕掛けてくるんやないやろか?
ぼくは少し身構えた。
とその時、下座から流れてきたのは「野崎」。
春團治師匠の出囃子でした。
体調が思わしくないのに、
それを押してわざわざ
ぼくの襲名記念公演に駆け付けて下さった春團治師匠。
ぼくを驚かせようと、ぼくの出番が始まるまで
駐車場の車の中にずっと潜んでおられたそうです。
でも、そんなことなど露にも知らないぼくは、
出番前にネタを繰りにフラリ駐車場に。
その時のことを春團治師匠は振り返ってこうおっしゃいました。
「あん時はお前に見つかったらあかんと思て、
慌てて隠れたんやで」。
そう言って笑う春團治師匠は、
まるでやんちゃな少年そのまま。
「してやったり!」の笑顔でした。
ぼくに見つかるまいと
車の中で小さく丸くなって隠れておられた師匠の姿を想像すると、
今も笑みがこぼれてしまいます。

司会を務めた春蝶くんが、舞台上でマイク片手にスマホで撮ってくれた貴重な一枚です。

こちらも撮影は春蝶くん。
花束を抱えて登場された春團治師匠の姿を見た時、
ぼくは思わず泣いてしまいました。
残念なことですが、この挨拶が、
公の前に顔を出した最後の舞台になってしまいました。
体調不調からぼくの襲名披露公演の口上に並べなかったこと。
それを春團治師匠はずっと気にされていました。
ご自宅へ伺うたび、
何度も何度もそのことを口にされました。
「蝶六、すまんなぁ」
ぼくはその一言だけで十分すぎるぐらい十分でした。
そんないきさつがあって、この花束贈呈でした。
あとで伺ったのですが、
襲名披露会場になったアゼリアホールにも、
春團治師匠から直々に電話があったそうです。
「蝶六の襲名をよろしゅう頼む」って。
「口上に並べなくてすまん」って。
襲名の挨拶まわりは、春團治師匠宅からの出発でした。
「ホンマはわしが行かんならんねやけどなあ、福團治!お前はわしの代行や!!しっかり頼むで・・・・・・
皆にな、文枝くんにも、ざこばくんにも、鶴瓶くんにも、くれぐれもよろしゅうにな」
そう言って、送り出してくださいました。
去年の3月でした。

撮影:相原正明

春團治師匠の向かいに座る女性は、初代花團治のひ孫・山田りこさんです。撮影:相原正明

撮影:相原正明
……春團治師匠、
本当に、本当にありがとうございました。
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写真家・相原正明のブログはここをクリック!
地下鉄の車内で
ばったりお会いすることが何度かあった。
ぼくが椅子に掛けて、下を向いて本を読んでいると、
「あのう……ひょっとして蝶六師匠と違いますか?」
お客さんかと思い、ふと顔を上げると、
そこには大きなマスク姿の春團治師匠。
「あ、どうもおはようございます」と慌てるぼく。
そんな時の春團治師匠は、
肩を少しすくめるように、
まるでいたずら小僧のような笑顔でした。
相手を驚かせたり、
サプライズが人一倍好きな方でした。
「今日はな、仕事やないさかい、無料の敬老パスやねん」
逆に、仕事の移動では、
決して、地下鉄無料パスを使わないという律義な方でもありました。

2015年4月25日・春團治法要(池田・受楽寺にて) 撮影:相原正明
ところで、それは2015年6月21日(日)のことでした。
住吉区民センターで行われた「春團治一門会」。
その日は「花團治襲名記念」と銘打っての開催でした。

トリの高座が終わって、ぼくが頭を下げていると、
「おじか~ん!」という鳴り出すはずの
追い出し太鼓が聞こえてきません。
代わりに現・春蝶くんがご陽気に飛び出してきました。
「今日は、兄さんの襲名記念ということで、
サプライズゲストにお越しいただきました!!!」

ぼくと、現・春蝶くん(右)
彼のことは、ぼくが入門して以来、小学1年の頃から知っている。
なにかよからぬいたずらでも仕掛けてくるんやないやろか?
ぼくは少し身構えた。
とその時、下座から流れてきたのは「野崎」。
春團治師匠の出囃子でした。
体調が思わしくないのに、
それを押してわざわざ
ぼくの襲名記念公演に駆け付けて下さった春團治師匠。
ぼくを驚かせようと、ぼくの出番が始まるまで
駐車場の車の中にずっと潜んでおられたそうです。
でも、そんなことなど露にも知らないぼくは、
出番前にネタを繰りにフラリ駐車場に。
その時のことを春團治師匠は振り返ってこうおっしゃいました。
「あん時はお前に見つかったらあかんと思て、
慌てて隠れたんやで」。
そう言って笑う春團治師匠は、
まるでやんちゃな少年そのまま。
「してやったり!」の笑顔でした。
ぼくに見つかるまいと
車の中で小さく丸くなって隠れておられた師匠の姿を想像すると、
今も笑みがこぼれてしまいます。

司会を務めた春蝶くんが、舞台上でマイク片手にスマホで撮ってくれた貴重な一枚です。

こちらも撮影は春蝶くん。
花束を抱えて登場された春團治師匠の姿を見た時、
ぼくは思わず泣いてしまいました。
残念なことですが、この挨拶が、
公の前に顔を出した最後の舞台になってしまいました。
体調不調からぼくの襲名披露公演の口上に並べなかったこと。
それを春團治師匠はずっと気にされていました。
ご自宅へ伺うたび、
何度も何度もそのことを口にされました。
「蝶六、すまんなぁ」
ぼくはその一言だけで十分すぎるぐらい十分でした。
そんないきさつがあって、この花束贈呈でした。
あとで伺ったのですが、
襲名披露会場になったアゼリアホールにも、
春團治師匠から直々に電話があったそうです。
「蝶六の襲名をよろしゅう頼む」って。
「口上に並べなくてすまん」って。
襲名の挨拶まわりは、春團治師匠宅からの出発でした。
「ホンマはわしが行かんならんねやけどなあ、福團治!お前はわしの代行や!!しっかり頼むで・・・・・・
皆にな、文枝くんにも、ざこばくんにも、鶴瓶くんにも、くれぐれもよろしゅうにな」
そう言って、送り出してくださいました。
去年の3月でした。

撮影:相原正明

春團治師匠の向かいに座る女性は、初代花團治のひ孫・山田りこさんです。撮影:相原正明

撮影:相原正明
……春團治師匠、
本当に、本当にありがとうございました。
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