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161.宛先のない手紙は届かない~みなさん・あなた・わたしのベクトル~


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かつては宴席での一席というのが多々あった。
落語というものが
あまり浸透していなかったせいもあるのだろう。
「お食事中、BGM代わりに落語をやって欲しい」
という依頼があった。
今なら、依頼の段階でお断りするか、
食事と落語の時間を分けてほしいと願い出るか、
あるいは、適当に小咄かなんかでお茶を濁して、
早々に退散するところだが、
当時のぼくは若かった。
そんな場所でも大真面目にたっぷり古典を演った。

「一人でも聞いてくれてたらモウケもん」という気持ちだった。
実際、そういう現場をご覧になって、
以来、ずっとご贔屓にしてくださる方がおられる。
「あの時はずいぶん闘ってましたね」。
その方とは、たまにそういう思い出ばなしになる。


桂蝶六(23歳)
ぼくが24歳の頃



内弟子時代、師匠の鞄持ちで駆け回っていた頃である。
ある現場で、ぼくは師匠にこのように言われた。
「今日はな、わしの咄を聞かんでええからな、
楽屋で待っててくれたらええさかい」

いつもなら
舞台袖で師匠の咄を聞かせてもらうのが当たり前なのに、
その日に限って妙なことをおっしゃるものだと思った。
けれども、そう言われるとかえって聞きたくなるもので、
ぼくは会場の後ろから、師匠に見つからぬよう、
そーっと覗くことにした。

会場は宴席真っ只中だった。
誰も舞台を見ようとしない。
当時は週のレギュラー番組も多く、
誰もが知っている売れっ子にも関わらず、
師匠が話す真ん前で、ビールの注ぎ合いをする者や、
名刺交換をする輩までいた。
「ああ、そうか。師匠はこんなところを
弟子に見られたくなかったんだな」。

しかし、そんな環境にも関わらず、
師匠は淡々と漫談を始めた。
すると、徐々に聴く者が増えて、
いつしか大きな笑いの輪ができていた。
舞台を下りる師匠に大きな拍手が送られた。

後日、この話を兄弟子にした。

「いやぁ、そういう現場なぁ、
わしもようあんねん。
あのな、そういう時はやな、
一本釣りしたらええねん」

つまり、それはこういうことだった。
「誰も聞いていないと思っても、
誰か一人ぐらいは聴いてくれてるもんや。
せやから、最初はその人に向けて話をすんねん。
そのうち、この人がフフッと笑うてみぃ。
その隣の人も気になって、一緒に聞いてくれるようになる。
そうこうするうちに、そのテーブルが集中してくれるようになる。
そうなったらしめたもんや。
それが隣のテーブル、そのまた隣のテーブルと飛び火していく。
最後は、会場全体に輪が広がってやな……」。

ぼくは師匠のまさにそういう現場を見ていたものだから、
おおいにこの話に納得した。
でもやっぱり、ぼくは、こういう現場は苦手だ。

春蝶、立ち切れ、縮小版
二代目春蝶(1993年1月4日没) 撮影:後藤清


あれは20年程前のことだった。
奈良の元興寺というお寺で、三波春夫さんの講演。
進行役には放送タレントの永六輔さん。
二人の掛け合いが滅法面白く
のめり込んで拝聴させて頂いたことをよく覚えている。

さて、その講演の途中でした。
永六輔さんはおもむろにこのように切り出されました。

「この講演が始まって、
かれこれ1時間ぐらいが経ちますが、
一度でも三波さんと目が合ったと思われる方、
お手をお挙げいただけますか?」


するとどうだろう。
会場にいた200人近くのお客のほとんどが挙手されたのだ。

コトバのベクトルは、大きく
「あなた」「みなさん」「わたし」の三つ。



大勢を前にすると、
ついつい「みなさん」にばかり向けて話してしまいがちですが、
これはあまり効果がない。

今も演説の名手としてよく取り上げられるのが、
あの田中角栄さん。独特のだみ声で、
「みなさん」ベクトルから「あなた」ベクトルへの見事な転換。

「これから日本の国はどうなるのか?
…ねえお母さん」。


ある講演で講師の先生がこんなことを言われた。

「宛先のない手紙は誰にも届かない」


けだし名言だと思う。
「みなさん」ベクトルばかりだと、
結局、誰のところへもコトバは届かないんですよね。

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Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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