163.劣等感バンザイ!!!~不足から満足へ~

東京豪徳寺・イシス編集工学研究所にて 2016年3月19日
不足はいつしか強い満足に反転していく。
上方落語は大阪弁、江戸落語は江戸ことばで語られる。
したがって、他府県出身の者はまずこの言葉の壁にぶつかる。
しかし、落語の世界はなかなかに自由だ。
江戸ことばが苦手なら堂々と自身のお国言葉で演じればいい。
なんなら江戸という舞台背景を変えてしまえばいい。
現に、鹿児島出身で東京在住の三遊亭歌之助師匠は
鹿児島弁落語で人気を博している。
関西では、桂枝曾丸さんが和歌山弁落語で人気を不動のものにした。
「上方落語は大阪弁でないとあかんのでずいぶん直されました。
それでも高座で緊張のあまり和歌山弁が出て、
お客さんが引いてしまったことがあるんです。
それで大阪の古典落語を
和歌山弁に変えてやったことがあるんですけど、
文化的な背景も違うし、なんか違和感を感じて、
それなら和歌山の落語を和歌山弁でやろうと・・・」。
和歌山弁は活気と朗らかさが溢れる
なんとも魅力的な方言だが、
海言葉なので船場言葉の上方落語とはどうしても折り合いがつかない。

左:桂枝曾丸さん、右:ぼく

彼の考えに共鳴した
同じく和歌山出身の漫画家のマエオカタツヤ氏が
座付き作家として協力して数多くの和歌山落語が生まれた。
もはやそれは和歌山弁落語ではなく、
「和歌山落語」と呼ぶべきだとぼくは認識している。

和歌山弁落語集(桂枝曾丸)アマゾン
ところで、編集者で作家の松岡正剛氏はこう述べている。
武蔵坊弁慶には弁慶の泣き所という弱点があった。
勿論、それが致命傷になるということがあるが、
しかし、それが新たな強さの契機になる。
不足はいつまでも
弱い不足のままでなく、いつしか
強い満足に反転していく可能性がある。
・・・・・・彼の和歌山落語がまさにそれだった。

ちくま学芸文庫「フラジャイル」
落語協会の最高顧問である三代目三遊亭圓歌師匠が
落語家になったのは吃音を克服するためだった。
朝の情報番組「とくダネ!」の司会者として活躍中の小倉智昭氏は、
幼少期から吃音に悩み、からかわれていたので
「それを見返してやろう!」とあえてアナウンサーを志したのだという。
かの田中角栄氏もまた、歌っている時だけ
吃音が出ない事に気づき浪花節を歌って吃音を克服した。
それがあの名演説につながったのかもしれない。
~吃音をもつ有名人リスト~
そもそも、ぼくだって小学生の頃から吃音だった。
高校生になって、落語を始めたことが良かったのかも知れない。
また、狂言の稽古を始めたのも
元はといえば、声の矯正が目的だった。
生来のキンキン声をどうにかしたくて始めたことだった。
「蝶六くん(当時のぼくの名前)、君の声は落語に向いていないね」という
狂言師の言葉がなかったら、ぼくは花團治を襲名することも無かっただろう。


今は、かつて稽古を共にした金久寛章先生の「狂言エクササイズ教室」に通っています。
スクワットやバランスのレッスンを取り入れながら、丹田の意識を高めます。
不思議と声の通りが良くなり、気持ちもさわやかになります。。
👉 「狂言エクササイズ」に関するブログはこちらから
ところで、占い好きとしても有名な
女流落語家第一号の露の都師匠がこんなことを言われた。
ずっと運気が良すぎるというのも
良くないですよね。
調子に乗ってばかりだと
人の気持ちが見えなくなってしまう。
不遇を経験して初めて人の気持ちがよく分かる道理だ。

露の都師匠と。繁昌亭落語家入門講座では都主任講師のもとで、サブ講師を務めさせてもらっています。
また、先に紹介した松岡正剛氏はこのようにも言う。
劣等感はかならずしも
自分が劣っていると自覚するから
生まれるのではない。
むろん何かは劣っているかもしれないが、
当人はそれとは逆に、
いつもひょっとしたらうまくいくかも
しれないと思っているものだ。
この「ひょっとしたら」という
気持ちの高揚がなかったら、
劣等感はたいして育たない。
劣等感をしかと抱え、
ぼくもまだまだ自分の可能性に賭けてみたい。

さあ、今年もいよいよ授業が始まる!
この拙文は連載させていただいている「リフブレ通信」の原稿に加筆したものです。
こうして、いつも考える機会を与えてくださる「リフティングブレーン社」さんに感謝です!
花團治の「落語を教育に生かす」研究論文を、是非、下記からご覧ください。
👉 大阪青山大学学術情報リポジトリ
👉 「桂花團治公式サイト」はこちらから
👉 「桂花團治の落語教室」はこちらから
※稽古日程の都合上、25名様限定で、しばらく入塾をお断りさせて頂いておりましたが、受講生の転勤等で空きがでましたので、あと3名様の募集とさせていただきます。
👉 講座のご案内:「声が届かない」を克服するヒントが落語にあった
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