166.劣等感のチカラ~落語に学ぶコミュニケーション術~
小学生の頃、担任の先生が放った一言から
ぼくの屈折人生が始まりました。
終了前のホームルームのときでした。
先生の話が終わって、クラス委員が「起立!」と声を掛けました。
でも、ぼくはなぜか立てませんでした。
その声がちゃんと耳に届いているにも関わらず、
ぼくはただボーっと椅子に掛けたまま、外を眺めていました。
気がつけば自分の世界に入り込んで周りを一切見ようとしない。
ぼくはいつだってそんな子でした。
そのときも、同級生の一人がそれを見つけてこう言いました。
「森くん(ぼくの本名)がまだ立っていません」。
その報告を受けた担任はチラリぼくを見やってポツリと吐き捨てるように、
「あの子は普通の子と違うから」

撮影:相原正明
なんで、ぼくはこんなにもの覚えが悪いんだろう。
なんで、ぼくは皆のようにボール遊びができないんだろう。
なんで、ぼくは皆から仲間はずれにされるんだろう。
なんで、ぼくは寝小便が治らないんだろう。
……以来、ぼくの夢は「普通の子になる」でした。
自分に自信の持てなくなったぼくは、
いつしか吃音で上がり症になっていました。
そんなぼくはやがてイジメの対象となり、
体育館のマットのなかに丸め込まれたり、ずいぶんヒドイ目にも遭いました。
マットから這い出したぼくの下半身はパンツまで脱げてしまい丸裸。
同級生たちはそれを見て笑いました。
でも、ぼくにとってはそれも救いでした。
なぜなら、無視されるよりはよほどいいやと思っていたからです。
この「笑われる」ことがぼくにとって芸人への道の第一歩だったのです。
落語家になってからも上がり症はそのままでしたが、
自分は不器用だという自覚が「継続」という才能につながりました。
甲高く上ずったキンキン声だったために、
「落語家の声に向かない」と言われ、狂言の稽古にも通うようにもなりました。
気がつけば、狂言で矯正した声が逆にぼくの売りとなって、
昨年「花團治」という名を襲名させていただくことにもつながりました。
また、「克服」という経験が、ぼくを教壇の道へと導いてくれました。
ぼくを何とかこれまで育ててくれたのは
「劣等感」に他ならないのです。

2015年4月16日、池田アゼリアホールにて、蝶六改め、三代目桂花團治を襲名させていただきました。
左から、桂春之輔、桂福團治、ぼく、六代桂文枝、桂ざこば
もしも、ぼくが器用に何でもすぐにこなせるタイプなら、
とうの昔に落語家を辞めていたかも知れません。
また、「劣等感」とは、
「ぼくはまだまだこんなもんじゃない」という気持ちの裏返しです。
もし、あなたが大きな「劣等感」に苛まれているのなら、
それは大きなチャンスです。
何よりそれによって得られる「克服」は、大きな自信にもつながります。
吃音で人一倍上がり症なぼくが、
なぜ、その真逆であるはずの落語家になれたのか?
どうすれば上がり症が治せるのか?どうすれば吃音が克服できるのか?
どうすればポジティブな自分になれるのか?
それらのヒントが
すべて「落語」の世界に詰まっています。

2014年に開催したオペラと能のコラボレーション企画。
「声」を知るうえで、とても有意義な上演でした。
◆花團治公式サイトはここをクリック。
ぼくの屈折人生が始まりました。
終了前のホームルームのときでした。
先生の話が終わって、クラス委員が「起立!」と声を掛けました。
でも、ぼくはなぜか立てませんでした。
その声がちゃんと耳に届いているにも関わらず、
ぼくはただボーっと椅子に掛けたまま、外を眺めていました。
気がつけば自分の世界に入り込んで周りを一切見ようとしない。
ぼくはいつだってそんな子でした。
そのときも、同級生の一人がそれを見つけてこう言いました。
「森くん(ぼくの本名)がまだ立っていません」。
その報告を受けた担任はチラリぼくを見やってポツリと吐き捨てるように、
「あの子は普通の子と違うから」

撮影:相原正明
なんで、ぼくはこんなにもの覚えが悪いんだろう。
なんで、ぼくは皆のようにボール遊びができないんだろう。
なんで、ぼくは皆から仲間はずれにされるんだろう。
なんで、ぼくは寝小便が治らないんだろう。
……以来、ぼくの夢は「普通の子になる」でした。
自分に自信の持てなくなったぼくは、
いつしか吃音で上がり症になっていました。
そんなぼくはやがてイジメの対象となり、
体育館のマットのなかに丸め込まれたり、ずいぶんヒドイ目にも遭いました。
マットから這い出したぼくの下半身はパンツまで脱げてしまい丸裸。
同級生たちはそれを見て笑いました。
でも、ぼくにとってはそれも救いでした。
なぜなら、無視されるよりはよほどいいやと思っていたからです。
この「笑われる」ことがぼくにとって芸人への道の第一歩だったのです。
落語家になってからも上がり症はそのままでしたが、
自分は不器用だという自覚が「継続」という才能につながりました。
甲高く上ずったキンキン声だったために、
「落語家の声に向かない」と言われ、狂言の稽古にも通うようにもなりました。
気がつけば、狂言で矯正した声が逆にぼくの売りとなって、
昨年「花團治」という名を襲名させていただくことにもつながりました。
また、「克服」という経験が、ぼくを教壇の道へと導いてくれました。
ぼくを何とかこれまで育ててくれたのは
「劣等感」に他ならないのです。

2015年4月16日、池田アゼリアホールにて、蝶六改め、三代目桂花團治を襲名させていただきました。
左から、桂春之輔、桂福團治、ぼく、六代桂文枝、桂ざこば
もしも、ぼくが器用に何でもすぐにこなせるタイプなら、
とうの昔に落語家を辞めていたかも知れません。
また、「劣等感」とは、
「ぼくはまだまだこんなもんじゃない」という気持ちの裏返しです。
もし、あなたが大きな「劣等感」に苛まれているのなら、
それは大きなチャンスです。
何よりそれによって得られる「克服」は、大きな自信にもつながります。
吃音で人一倍上がり症なぼくが、
なぜ、その真逆であるはずの落語家になれたのか?
どうすれば上がり症が治せるのか?どうすれば吃音が克服できるのか?
どうすればポジティブな自分になれるのか?
それらのヒントが
すべて「落語」の世界に詰まっています。

2014年に開催したオペラと能のコラボレーション企画。
「声」を知るうえで、とても有意義な上演でした。
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