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168.熊本で”笑顔を届ける落語会”~まずは「息を吐く」ことから~

今から20年前、阪神淡路大震災の一年後に訪れた仮設住宅でのこと。
そこに詰めていたボランティアスタッフの一人がこのようにおっしゃった。

「震災の直後はね、
芸能人がテレビカメラと共に
大挙押し寄せて全国から注目の的でした。
でも、今となってはもう誰も見向きもしない。
寂しいもんですよ。
だからこそ、今、来て欲しいのです」。


その施設には確か100名近くのお年寄りが入居されていた。
ぼくは知人の紹介でそこを訪れ、落語を披露した。
後にも先にもあれほど笑っていただいたことはなかった。
客席は笑いに飢えているという表現がぴったり当てはまった。

人が笑うのはオモシロいときばかりとは限らない。
元気を取り戻すために人は笑う。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

今、熊本では避難所から仮設住宅への入居を進めている最中である。
しかし、仮設住宅があまりに不便な場所にあって
そこへの入居を躊躇する方も少なくない。
家の解体も始まってはいるが、
人によっては三年待ちという状況もあるらしい。
ついこの間までは、通常の10倍近い値段を吹っかけてくる
悪徳建築業者も横行していたらしい。

本当の意味での落ち着きを取り戻すには
まだまだ時間がかかるだろう。


そんななか、ぼくは桂文鹿師と二人で熊本を訪れた。
被災者の慰問が目的だった。
飛行機が熊本上空に差し掛かったとき、
まず目に飛び込んできたのが青いシートで覆われた屋根、屋根、屋根・・・・・・

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熊本上空から。


「わぁ、大変なことになっているなぁ」と感じたが、
実際にその地へ足を踏み入れたときには全くそれどころではなかった。
大きく傾いた家屋が並んでいおり、その光景に圧倒されてしまった。
言葉を失うとはこのことである。



今回の運営にあたってくれた熊本商工会議所青年部の一人からこんな話を伺った。
「うちの奥さんは一人で家にようおらんとですよ。
ぼくが帰るまで車のなかでずっと待ってるんです。
しかもつい最近まで家のなかでは必ずヘルメットをかぶってました」。

きっと多くの人が同じように大きな不安を抱いている。
今回の慰問で御船町、益城町、西原村と三日間で7か所の会場を回った。

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落語に集まってきた被災者は
9名から70名程度と会場によって規模はまちまちだった。

段ボールで仕切られた居住空間のなかで
周囲に気遣って暮らす人々の姿があった。
ここから仕事に通う人も多くおられた。
ぼくらが落語を演じていると小学生が学校から戻って来た。
そんな中でみんなよく笑ってくれた。
終演後に握手を交わすうち涙ぐむ方もおられた。

パーソナルスペースの少ない避難場所では、
なかなか大声を出すことは難しいだろう。
よほど気を遣わねば周囲の苦痛にも繋がる。

今回の被災地慰問での落語家は桂文鹿師とぼくの二名だった。
落語のあと、ぼくは狂言メソッドを使っての声出し、
文鹿師は河内俄(にわか)でお客を巻き込み、全員で万歳三唱をした。

笑うことが、大きな声を出すことが、大きな息を吐くことが、
心身にとってどれほど大切なことか。
それを実感した熊本の旅だった。

熊本落語バンザイ
落語のあとは文鹿師の「河内にわか」で万歳三唱。とにかく一緒に大声を出すことが一番イイ。


…… 今回の震災においても、これまで同様、
多くの芸能人やボランティアがその直後に現地を訪れて被災者を励ました。
確かにそれはそれでとても良いことだと思う。
でもきっと近い将来、メディアの話題に上らなくなる時がくるだろう。
だが本当の意味での復興はまだ遠い。

ある記録によると、神戸市では震災翌年では前年に比べて自殺者が減少したものの、
震災三年から五年後にかけて急激に増えたという。

生活が少し落ち着きを取り戻し始めたとき、
今度は「心」に
ポッカリ穴が空いたみたいになるのだろう。

後から思えば、
冒頭に紹介した「今こそ来て欲しい」という言葉はまさにそれを示唆していた。

熊本においても
いずれこの「今こそ」がやってくるだろう。
次回はこの、
本当の「今こそ」にこそ
熊本を訪れるべきだと思っている。


最後に、コーディネートから舞台設営まで全てを運営してくださった
熊本商工会議所青年部と株式会社リフティングブレーンさんに心より御礼申し上げます。

なお、この原稿は長年にわたって連載させていただいている「月刊・リフブレ通信」への原稿をもとに加筆したものです。

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落語の舞台にはビールケースがちょうどいい。会場のキャパに合わせて積み上げる数を変えていく。
回を追うごとにスタッフの設営も早くなった。

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3日目の最終日は学生落語と共に西原村を回った。

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落語キャラバンのスタッフらと共に。熊本県御船町にて。


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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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