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182.天下一の軽口男~何を笑うか~

花團治、扇子を顔に400
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最近になってようやく
『天下一の軽口男』(木下昌輝著)という時代小説を読んだ。
大坂落語の祖・米沢彦八の生涯を綴ったものだが、
これによると彦八は鹿野武左衛門という男を頼って
大坂から江戸の町へ繰り出している。
武左衛門は江戸落語の祖として知られているが、
元はといえば大坂の生まれ。これは文献にも残っている。

しかし、彦八が大坂から江戸に出たという記録は見当たらない。
けれども彦八と武左衛門は同時代を生きていたことは史実にも残っているし、
二人が交流したというのは全く在り得ない話ではない。
わずかに残る資料からどんどん膨らませていくのが時代小説の愉しさであろう。

彦八、天下一の軽口男

さて、辻咄(大道芸としての落語)を学びに江戸に出た彦八だったが、
すでに江戸では大坂とは違い、
辻咄からお座敷芸としての落語が主流になっていた。
日々投げ銭でその日暮らしをせずとも、
有力商人に認められれば悠々自適が約束された。

そこで彦八が見たものはそんな客にひざまずく芸人の姿であった。
あるお大尽の一人が彦八にこう言う。

「所詮、辻咄など闘犬や軍鶏と変わらぬ。
私たち大尽の退屈しのぎの余興よ。それを芸がどうのこうのと、
最近つけ上がっている。私たちがつまらんと言えば、
たちまち座敷から追放されるというのに
……今日は裸踊りでもさせるか。
……お前さんも座敷を目指しているのだろう。
せいぜい私たちが笑える芸を練っておきなさい。
最近面白かったのは、盲目の男がけつまづく仕方だ。覚えておけ」。


彦八が笑いを志し、
極めようとしたのは一人の少女への思いからだった。
彼女を笑いで苦しみから救ってやりたいと思っていた。
この後、彦八は江戸を後にした。

作品の詳細は『幻冬舎』のサイトにあります。こちらをクリック!

米沢彦八、境内の図
米沢彦八は生國魂神社の境内によしず張りの小屋を張り、そこで辻咄を演じた。


彦八まつり神社入り口
今も毎年9月の第一土曜・日曜に「彦八まつり」と銘打って落語家ファン感謝デーが開かれる。


生前、わが師匠(故・二代目春蝶)は、
ぼくによくこんなことをおっしゃった。
「あのな、何でもええから
笑わしたらええと言うもんやないんやで」。

師匠が繰り出す言動や笑いは常にどこか優しさを含んでいた。
それに、笑いというものはときに誰かを攻撃するものだ。
そんなときにも決まって師匠は弱者の立場を貫いた。
少なくとも弱者を嘲るような笑いはひとつとしてなかった。
『天下一の軽口男』で、
お大尽の言葉に憤る彦八はまるでわが師匠そのものである。

春蝶、立ち切れ、縮小版


思えば、師匠が我々弟子を叱るときには、
本当に怖いときとどこか笑みをためながらのときと二通りあった。
後者は弟子の失敗をどこか面白がっているふうでもあり、
「しゃあないやっちゃなぁ」という呆れが含まれていた。
いずれにせよ、師匠から突き放されたという思いは
一度だって感じたことがない。

ぼくは師匠のそんな眼差しに魅了されたのだ。

師匠の言動や眼差しは
いつだって愚かなぼくを救ってくれた。



また、ぼくがある週刊誌の対談コーナーに出たときのこと。
今でいうゲスなことをどんどん喋ってほしいという
先方の要望に応えようとしたぼくに雷が落ちた。
目先のわずかな現金欲しさに受けた仕事だったが、
このときばかりはしっかりとお灸を据えられた。

「あのな、若いうちは何でもやったらええと思うけどな、
ちいとは仕事を選ばんかい」。

この本に出会い、まず師匠のことを思い出した。
落語家としての矜持を正された思いです。

彦八、木下昌輝
「ああ、この人に会いたいなぁ」と思えば叶うもので、
ある落語会の打ち上げでたまたま隣の席におられたのが、
作者の木下昌輝先生でした。ばっちりツーショットを頂きました。


本文は、熊本のリフティングブレーン社が発行する社報誌
『リフブレ通信』の連載記事をもとに加工したものです。





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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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