183.落語はビジネスに活きる!?~愚か塾の場合~

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先日、ぼくの稽古場に卒業論文の取材をさせてほしいと
一人の女子学生がやってきた。
現在、ぼくは「愚か塾」という落語教室を主宰しているのだが、
その稽古人さんたちに伺いたいことがあるという。
「ブログで拝見したところ、お稽古人さんの多くが社会人のようで、皆さんはどういう目的で落語に取り組んでおられるのか?また、どういうふうに仕事に活かしておられるのかを伺いたくて」とのこと。
そこで稽古終わりに、数人の人にインタビューに協力してもらい、
ぼくは少し離れたところからしっかり聞き耳を立てていた。

「部下に対する接し方が変わったかなぁと思います。頭ごなしに叱りつけるんやなしに、少しは相手のいうことを聞けるようになった、と自分ではそう思っています。しいて言うなら、ぼくのロールモデルは甚兵衛さんですね」40代男性
……(花團治注)甚兵衛さんとは、落語に登場する町内の御隠居。阿呆に対して、「しゃあないやっちゃ」と呆れつつも優しく温かく見守る存在だ。
「私もそうですよ。普段、私は大学で教えているんですが、これまでヘマをした学生に対して『何をやってるんだ』と叱るばかりだったと反省してます。まず相手の言い分を聞いてやる。受容が大事です。甚兵衛さんのようにね。それに一方的では教育にならない。教育は対話です。それは落語から学んだことです」60代男性
……(花團治注)塾ではぼく自身教わることも多い。「落語と教育」の親和性には驚かされるばかりだ。この方がぼくを落語家としての教育の現場に導いてくれた。
「あのう、それやったら、ぼくのロールモデルは阿呆の喜六ですわ。相手に隙を見せるちゅうか、相手を優位に立てるちゅうか、喜六はホンマはめちゃ賢いちゃうかなって思うときがある。落語には人に愛される術が詰まっています」20代男性
……(花團治注)ある落語家の先輩はご贔屓が多いことで知られている。その師匠がぼくにこうおっしゃった。「ワシわな、相手を一目見たら己が喋りたい人か、あるいはワシの楽屋話を聞きたい人なのかがすぐにわかるんや」。何度か宴席にも同席したが、本当は博識なのに阿呆のふりができる見事な道化ぶりだった。

「愚か塾」の落語発表会では大喜利が定番。団体プレーも愉しんでいただきます。
「わたしは、家でも職場でもなかなか声を出す機会がないので、ここで発散させてもらってます」50代女性
……(花團治注)ただ大きな声を出すというのではなくて「肚で声を支える」ということ。うちの稽古場では「東の旅」という咄の発端を参加者全員で毎回唱和している。

「新しい自分が発見できそう。最初はみんな同じ演目をするんですが、台詞が全く同じにもかかわらず、みんなそれぞれの個性が現れるんです。個性って、出すもんじゃなくて、にじみ出るもんなんですね」40代女性
……(花團治注)ぼくはある落語家の先輩に稽古をつけてもらっていてずいぶん叱られたことがある。「お前はわしを取る気がないやろ。わしに稽古を頼んだんやさかい、わしをいっぺん身体ん中へ入れるつもりで稽古せえ。それでもどうしても自分が出てくるやろ。それがお前の味や……第一、稽古してる尻から勝手にアレンジするやなんて、稽古つけてくれる人に対して失礼極まりないで」。
「わたしはボケ防止にやってますねん。まぁ、落語やってる間はボケまへんやろ。それに、この年になって舞台に立てるやなんて、人生は何があるか分かりませんわ」60代女性
……(花團治注)入門して間もない頃、ぼくは師匠に言われました。「お前はまだこの世界に入って間なしやけど人前で20分も喋らせてもらえるんやぞ。芝居の世界やったらちょっと考えられへんわな」。
「うちの家は代々お寺ですので、将来的には法話に生かそうかと思ってます」30代男性
……(花團治注)その昔、仏の教えを説いてまわる説教師の方々は、法話の際にまず滑稽な話を聞かせて民衆を惹きつけたといいます。このなれの果てが落語家だという説もある。
「皆さん、なかなかイイこと言ってくれるなぁ」と思いつつ、
隣の部屋からしっかり聞かせていただきました。
なかには「全くぼくからの受け売りちゃうのん!」と
思わず突っ込みたくなるのもありましたが…それでいいんです。
だって、ぼくだって9割受け売りですから。
何か盗むものあらば幸いです。

是非とも発表会にお越しくださいませ。
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「落語の術を仕事や生活に生かしてほしい」
「落語の魅力を感じてほしい」
ということで始めた「落語塾」。
誰がウケたとか、オモシロいというのは二の次です。
そんなわけで、アマチュアで落語活動をしたいとか、
駆け出しの漫才師で「芸の肥やしにしたい」とか、
そういう目的の方はご遠慮いただいております。
そのうえで、愚か塾に興味を持たれた方は、
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現在は定員超えでキャンセル待ちとなっておりますが、
転勤などが多い春頃にはご案内できるかもです。
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