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187.おしゃべりはやめて~弟弟子のこと、愚か塾のこと~

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今から33年前、ぼくが先代春蝶の家に住み込みだった頃、
師匠のもとに一人の入門志望の若者がやってきた。

「人前で話すのが苦手で、
なんとかそれを克服したいんです」。

彼は大真面目な顔で弟子入りしたい理由を語った。
「絶対、師匠はこいつを弟子に取らないだろう」と思っていたら、
意外にもすんなりとぼくの弟弟子として迎えられた。

「うちは話し方教室やないねやさかい」
自嘲気味に笑う師匠の表情は今もよく覚えている。
でも、それは決して突き放すような言い方ではなく、
「けったいなやっちゃなぁ」と相手を受け入れる微笑みでもあった。


結局、彼は落語家を廃業してしまったが、
今になって思えば、彼はとてもイイ奴だった。
なにより聴き上手なところが彼の長所だった。
ことあるごとにぼくの愚痴の聞き役になってくれた。
そんな彼が廃業して一度だけぼくの自宅を訪ねてくれたことがある。
「兄さん、ぼくね、師匠のところでの修行生活が、
今になってものすごく役立ってるんですよ」。
目をキラキラさせてそう語ってくれた。

師匠は出しゃばったことの嫌いな人だった。
抑制のきいた喋りは「引きの芸」に繋がったし、
ペーソスあふれる芸風を生みだした。
そんな師匠だからこそ、
彼のそういう立ち居振る舞いに
何かを感じ取ったのかもしれない。


二代目春蝶、ノック、たかじん、ざこば
左から二代目春蝶、横山ノック、やしきたかじん、桂ざこば


一方、師匠のもとに入門してすぐの頃のぼくは
「ぼくはぼく、師匠は師匠やから自分のやり方を見つけなあかん」と、
どこか粋がっているようなところがあった。
落研出身でもあったぼくは稽古してもらっている尻から台詞を変えたり、
他の師匠のくすぐり(ギャグ)を勝手に付け加えたり……
ついには師匠にこんなことを言わせてしまった。

「あのな、習うっていう字はな、
羽に白いって書くんやで」


春蝶の家族と共に
先代春蝶一家と共に(後列右がぼく、その前に現・三代目春蝶)



現在、ぼくが主宰する「愚か塾」という落語教室には
10代から70代まで職種も年齢もバラバラな25名が通ってくれている。
発足しておよそ10年。これまでにおよそ70名が入塾したが、
そんな経験から言わせてもらえば、
自らを口下手だという人の方が比較的飲み込みが早い。

饒舌だからといって咄がイイとは限らないし、
「話し上手は聴き上手」というごく当たり前のことを
塾生たちがいつも気づかせてくれている。

愚か塾、大喜利1
発表会での大喜利風景


例えば、営業職にありがちなのが、
ぼくがアドバイスをしている途中にも関わらず、
「ああ、それは〇〇ということですね。はい!分かりました!」と、
自分で強引に結論づけて終わらせてしまうタイプ。
少し違うかなと思いつつもつい言葉を飲み込んでしまうというのは
ぼくの悪い癖である。
そんなとき、他の塾生がぼくの表情を横から盗み見て
可笑しそうにフッと笑っている。

また、こんな方も過去に何名かおられた。
「(他の)〇〇師匠のやり方が面白かったので、
そちらの音源で演ってもよろしいか」という受講生。

まるであの時のぼくではないか。


愚か塾、ぴっける
愚家ぴっける君。彼にとっての初高座だったが、
今春より教育ボランティアとしてザンビアに渡航することになった。


愚か塾、もねこ
愚家花もねこさん。こちらも初高座。なんともいえないイイ味出してます。


「愚か塾」では稽古を終えると
塾生たちと酒を酌み交わすことがある。
「酒のうえだから」という逃げ口上もあるが、
むしろ酒席でこそその人の性分がよく表れる。

他人の話を横からすぐに取ってしまう人。
妙な相槌で相手の話のリズムを狂わせる人。
持論の展開ばかりで他人の話を聞こうとしない人。
知ったかぶりで胴を取ろうとする人。あるいは慇懃無礼……


って、これらとてぼく自身がずっと注意され続けてきたことだが、
過去にはうちの塾にもそういう方が何名かおられた。
こういう体質は咄を演じていてもすぐに表れるもので、
しっかり咄の「間」が取れなかったりする。

単なるお喋りは話し上手ではない。


愚か塾、打ち上げ
発表会のあとの打ち上げ。
稽古場では代々の花團治と先代春蝶が見守ってくれている。


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……教えることは教わることだと痛感する日々。
ぼくには弟子こそいないが、塾生という存在がそれに代わってくれている。
今在籍する塾生はみんな「傾聴」の人々だと感謝している。
それにしても、ぼくの元・弟弟子。
あのまま続けていたらきっとイイ咄家になっていただろうなぁ。
機会あらば是非一献傾けたい。



この原稿は熊本の人材派遣会社・㈱リフティングブレーンの発行する『リフブレ通信』に
連載中のコラム「落語の教え」を加工したものです。


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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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