189.悪事も善事も千里を走る~見てる人は見てるもんです~
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「若手コンテストを見ました。真剣勝負の場なのにそれを審査する立場の者が普段着のまま舞台に立つというのはいかがなものか。見ている人は見ています」
今、ぼくは上方落語協会で「若手育成委員会」に所属している。
若手のための深夜寄席やコンテストの運営をするのが
その主な業務内容だが、先日、ぼくのもとに
とある新聞記者から冒頭のようなメールが届いた。
このときの審査員とはつまりぼくのことである。
言い訳がましくなるが、その日は客席からの審査だけで
ぼく自身は舞台に上がる予定ではなかった。とはいえ、
急きょ舞台に上がる可能性があることはじゅうぶんに考えられたはずである。
ぼくとしたことが……。
翌日、すぐさまくだんの記者に御礼の電話を入れたのは言うまでもない。
このとき、ふと思い出したのが
日本テレビ『笑点』でもおなじみの林家たい平さんのことだった。
たい平さんはたとえラジオの収録であっても
きちんと着物に着替えて臨む人である。
そういう「了見(=考え)」がある方の目に留まって
大きなチャンスに繋がり、今に至っている。

ところで、これはずいぶん前の話になるが、ある俳優スクールで授業の終わりに
学生の一人を呼びつけてこんな説教をしたことがある。
「君な、ずっと頬杖ついて聞いてたやろ、あれはあかんで!」。
すると彼はこう応えた。
「けど、ぼくはちゃんと聞いてました。先生にはそう見えないだけ、ぼくはしっかり先生の授業を受けていました」。
そのとき、ぼくはつい声を荒げてしまった。
「あのな、君の将来の夢は何や?俳優になることやろ?俳優というたら他人に見られる仕事やで。自分のなかでは真面目にやっていると思っていても、他人から不遜な態度に見られているようではあかんのと違うか?」
つまり、あのときのお小言がしっかりブーメランとなって
我に返ってきたということである。

声優スクールでの授業風景 2009年
そう言えば、うちの師匠(二代目桂春蝶)のこんな言葉を覚えている。
「あのな、芸を身につけるのは、そらもう大事なことやけど、この世界で生きていこうと思ったら、評判を大切にせなあかんで」

二代目桂春蝶 平成5年1月4日没 (撮影:後藤清)
ついこの間、落語会のあとに
笑福亭鶴瓶師匠の呼びかけで打ち上げをすることになった。
鶴瓶師匠の中学校の同級生もわざわざその場に駆けつけてくれて、
皆で焼肉を囲むなか、その方が鶴瓶師匠の当時の思い出を語ってくださった。
「駿河(鶴瓶師匠の本名)は昔っからほんまにエエ奴やねん。みんな、こいつにずいぶん救われたんちゃうかな」

鶴瓶師匠の横でまるで大御所のようにひときわオーラを放っているのが鶴瓶師匠の同級生・木村さん
数々のステキなエピソードはおそらく他でもずいぶん披露されているのだろう。
悪事も善事も千里を走る。
良いことも悪いことも人の口から口へと伝染していく。
鶴瓶師匠は上からも下からも評判が良いということはもう言わずもがな。
日頃の「了見」が全てと感じた次第。
この原稿は熊本のリフティングブレーン社さんの社報誌「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」をもとに加筆したものです。

先代馬生師匠の次女で、池波志乃さんの妹さんがプロデュースする人気の会に、上方落語から初めて参加させていただくことになりました。
花團治出演情報の詳細はこちらをクリック!
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その主な業務内容だが、先日、ぼくのもとに
とある新聞記者から冒頭のようなメールが届いた。
このときの審査員とはつまりぼくのことである。
言い訳がましくなるが、その日は客席からの審査だけで
ぼく自身は舞台に上がる予定ではなかった。とはいえ、
急きょ舞台に上がる可能性があることはじゅうぶんに考えられたはずである。
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翌日、すぐさまくだんの記者に御礼の電話を入れたのは言うまでもない。
このとき、ふと思い出したのが
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たい平さんはたとえラジオの収録であっても
きちんと着物に着替えて臨む人である。
そういう「了見(=考え)」がある方の目に留まって
大きなチャンスに繋がり、今に至っている。

ところで、これはずいぶん前の話になるが、ある俳優スクールで授業の終わりに
学生の一人を呼びつけてこんな説教をしたことがある。
「君な、ずっと頬杖ついて聞いてたやろ、あれはあかんで!」。
すると彼はこう応えた。
「けど、ぼくはちゃんと聞いてました。先生にはそう見えないだけ、ぼくはしっかり先生の授業を受けていました」。
そのとき、ぼくはつい声を荒げてしまった。
「あのな、君の将来の夢は何や?俳優になることやろ?俳優というたら他人に見られる仕事やで。自分のなかでは真面目にやっていると思っていても、他人から不遜な態度に見られているようではあかんのと違うか?」
つまり、あのときのお小言がしっかりブーメランとなって
我に返ってきたということである。

声優スクールでの授業風景 2009年
そう言えば、うちの師匠(二代目桂春蝶)のこんな言葉を覚えている。
「あのな、芸を身につけるのは、そらもう大事なことやけど、この世界で生きていこうと思ったら、評判を大切にせなあかんで」

二代目桂春蝶 平成5年1月4日没 (撮影:後藤清)
ついこの間、落語会のあとに
笑福亭鶴瓶師匠の呼びかけで打ち上げをすることになった。
鶴瓶師匠の中学校の同級生もわざわざその場に駆けつけてくれて、
皆で焼肉を囲むなか、その方が鶴瓶師匠の当時の思い出を語ってくださった。
「駿河(鶴瓶師匠の本名)は昔っからほんまにエエ奴やねん。みんな、こいつにずいぶん救われたんちゃうかな」

鶴瓶師匠の横でまるで大御所のようにひときわオーラを放っているのが鶴瓶師匠の同級生・木村さん
数々のステキなエピソードはおそらく他でもずいぶん披露されているのだろう。
悪事も善事も千里を走る。
良いことも悪いことも人の口から口へと伝染していく。
鶴瓶師匠は上からも下からも評判が良いということはもう言わずもがな。
日頃の「了見」が全てと感じた次第。
この原稿は熊本のリフティングブレーン社さんの社報誌「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」をもとに加筆したものです。

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