191.復幸を目指して~熊本地震復興支援『笑顔を届ける落語会』後記~
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そのとき、ぼくの目に
「復幸」という文字が飛び込んできた。
それは校長先生の背にプリントされた文字だった。

5月19日・20日の二日間、
ぼくは益城、広安、木山、御船、大津、西原と熊本県下の仮設住宅や小学校を『笑顔を届ける落語会』で回らせていただいた。
益城町立広安西小学校もそのひとつ。
ある統計によると、震災が原因とみられる自殺者は3年後、4年後に
多く見られるそうだ。
1995年の阪神淡路大震災の際、
ぼくが被災者の住む仮設住宅を訪れたのは震災から一年後。
その時、ボランティアスタッフの言葉が今も記憶に新しい。
「(震災)直後は芸能人もマスコミも大勢押しかけてね。
けど今は誰も見向きもしない。寂しいもんです」。
スタッフはこう続けた。
「震災直後はとにかく皆が“生きる”ことに必死だった。けれども、とりあえずは仮設といえど住むところが確保され、風呂やトイレ、食事などの心配もしなくていいようになった。そんなときなんです、心の中にポッカリ穴が開くのは…」。
今こそ色んな芸能の方にも来て欲しいというのが彼の主張だった。
ぼくが慰問の継続にこだわるのはこの体験が元になっている。
だから、どうしても今年も熊本に行きたいと願い、
熊本商工会議所青年部のメンバーもおおいにそれに応えてくれ、
去年に引き続いて会場の調整から舞台設営、ぼくの交通や宿泊まで何もかもやってくれた。

熊本県益城町立広安西小学校にて。
昼休みの自主参加にも関わらず大勢の子どもたちが参加してくれました。


口演が終わってサインコーナー。ぼくにとってかなりのサプライズでした。
仮設団地の集会所はどこも大きな笑いに包まれた。
しかし、それはぼくの芸云々の問題ではなく、
とにかく一緒に笑うことが彼らの目的だった。
自宅のテレビでバラエティーを見ながら笑うのも良いが、
ひとつの空間で笑いを共にするということがどれほど大切か。
共に笑うということは価値観を共有するということ。
このことが絆を深め、孤独を遠ざける。
「まず外に出て来てもらうことだと思うんですよ」
「部屋にこもりっぱなしで孤独な方もきっと多いはず」
「復興は始まったばかりです」
……商工会議所のメンバーとも何度もそんな話を繰り返した。

熊本の仮設団地にて

「久しぶりに腹抱えて笑ったよ」と集まったお客様たち。ぼくもたくさん元気をもらった。

落語会の設営はこのトラック一台に集約されている。
高座にするビールケースや座布団、毛氈、パイプ椅子まで。
スタッフも慣れたもので到着から設営完了に要する時間はわずか15分足らず。

スタッフのなかでもとりわけ屈強な二人と。幟の横で撮ると、まるで相撲の巡業のようだ。
さて、冒頭に申し上げた熊本益城町立広安西小学校での公演である。
ここでは昼休みを利用して生徒が行き交うエントランスが会場ということもあり、
決して演じやすい環境ではなかったが、
それでも多くの子どもたちが耳をダンボにして付き合ってくれた。
壁一面には全国から寄せられたメッセージが貼られていた。
「復幸」という文字について、校長がこんな話をしてくれた。
「これは長岡花火大会の会場で目にした文字なんです」。
震災直後に災害支援にあたってくれたフェニックスという
ボランティア団体からの招待を受け、
校長は16名の小学生らと共に長岡を訪れている。
「復旧や復興の取り組みが一日も早く進むことを願う。これはもう言うまでもありませんが、熊本地震で受けた心の傷や痛みを乗り越えて、どこを目標にしてがんばっていくのか?それを考えさせてくれるのがこの言葉なんです。地震前まで当たり前と思っていた幸せに気づくこと。もっと幸せな社会を作っていこうという想い。それらがこの文字には集約されています」。
「復旧」とは堤防や道路など壊れたものを元通りすること。
「復興」とは元のような活気のある地域を取り戻していくこと。
なるほど「復幸」にはそれらを含めたさらなる思いが込められている。
それに大人や専門家のみならず子どもたちも共有できるのがこの言葉だ。
例えば、広安西小学校では
「おはよう」「ありがとう」「大丈夫?」と声にすることが
「復幸」に向けた第一歩とし、常に徹底している。。
今回の慰問も実に多くのことを考えさせられた。
「復旧」「復興」というより、
「復幸」が『笑顔を届ける落語会』に課せられた使命なんだと思う。
熊本商工会青年部の皆さんと来年の実施を約束し、熊本を後にした。

熊本県益城町立広安西小学校に全国からの応援メッセージ。
大阪・鶴橋小学校からのものもありました。
この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する月刊社報誌『リフブレ通信』に連載中のコラム「落語の教え」を加工したものです。

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そのとき、ぼくの目に
「復幸」という文字が飛び込んできた。
それは校長先生の背にプリントされた文字だった。

5月19日・20日の二日間、
ぼくは益城、広安、木山、御船、大津、西原と熊本県下の仮設住宅や小学校を『笑顔を届ける落語会』で回らせていただいた。
益城町立広安西小学校もそのひとつ。
ある統計によると、震災が原因とみられる自殺者は3年後、4年後に
多く見られるそうだ。
1995年の阪神淡路大震災の際、
ぼくが被災者の住む仮設住宅を訪れたのは震災から一年後。
その時、ボランティアスタッフの言葉が今も記憶に新しい。
「(震災)直後は芸能人もマスコミも大勢押しかけてね。
けど今は誰も見向きもしない。寂しいもんです」。
スタッフはこう続けた。
「震災直後はとにかく皆が“生きる”ことに必死だった。けれども、とりあえずは仮設といえど住むところが確保され、風呂やトイレ、食事などの心配もしなくていいようになった。そんなときなんです、心の中にポッカリ穴が開くのは…」。
今こそ色んな芸能の方にも来て欲しいというのが彼の主張だった。
ぼくが慰問の継続にこだわるのはこの体験が元になっている。
だから、どうしても今年も熊本に行きたいと願い、
熊本商工会議所青年部のメンバーもおおいにそれに応えてくれ、
去年に引き続いて会場の調整から舞台設営、ぼくの交通や宿泊まで何もかもやってくれた。

熊本県益城町立広安西小学校にて。
昼休みの自主参加にも関わらず大勢の子どもたちが参加してくれました。


口演が終わってサインコーナー。ぼくにとってかなりのサプライズでした。
仮設団地の集会所はどこも大きな笑いに包まれた。
しかし、それはぼくの芸云々の問題ではなく、
とにかく一緒に笑うことが彼らの目的だった。
自宅のテレビでバラエティーを見ながら笑うのも良いが、
ひとつの空間で笑いを共にするということがどれほど大切か。
共に笑うということは価値観を共有するということ。
このことが絆を深め、孤独を遠ざける。
「まず外に出て来てもらうことだと思うんですよ」
「部屋にこもりっぱなしで孤独な方もきっと多いはず」
「復興は始まったばかりです」
……商工会議所のメンバーとも何度もそんな話を繰り返した。

熊本の仮設団地にて

「久しぶりに腹抱えて笑ったよ」と集まったお客様たち。ぼくもたくさん元気をもらった。

落語会の設営はこのトラック一台に集約されている。
高座にするビールケースや座布団、毛氈、パイプ椅子まで。
スタッフも慣れたもので到着から設営完了に要する時間はわずか15分足らず。

スタッフのなかでもとりわけ屈強な二人と。幟の横で撮ると、まるで相撲の巡業のようだ。
さて、冒頭に申し上げた熊本益城町立広安西小学校での公演である。
ここでは昼休みを利用して生徒が行き交うエントランスが会場ということもあり、
決して演じやすい環境ではなかったが、
それでも多くの子どもたちが耳をダンボにして付き合ってくれた。
壁一面には全国から寄せられたメッセージが貼られていた。
「復幸」という文字について、校長がこんな話をしてくれた。
「これは長岡花火大会の会場で目にした文字なんです」。
震災直後に災害支援にあたってくれたフェニックスという
ボランティア団体からの招待を受け、
校長は16名の小学生らと共に長岡を訪れている。
「復旧や復興の取り組みが一日も早く進むことを願う。これはもう言うまでもありませんが、熊本地震で受けた心の傷や痛みを乗り越えて、どこを目標にしてがんばっていくのか?それを考えさせてくれるのがこの言葉なんです。地震前まで当たり前と思っていた幸せに気づくこと。もっと幸せな社会を作っていこうという想い。それらがこの文字には集約されています」。
「復旧」とは堤防や道路など壊れたものを元通りすること。
「復興」とは元のような活気のある地域を取り戻していくこと。
なるほど「復幸」にはそれらを含めたさらなる思いが込められている。
それに大人や専門家のみならず子どもたちも共有できるのがこの言葉だ。
例えば、広安西小学校では
「おはよう」「ありがとう」「大丈夫?」と声にすることが
「復幸」に向けた第一歩とし、常に徹底している。。
今回の慰問も実に多くのことを考えさせられた。
「復旧」「復興」というより、
「復幸」が『笑顔を届ける落語会』に課せられた使命なんだと思う。
熊本商工会青年部の皆さんと来年の実施を約束し、熊本を後にした。

熊本県益城町立広安西小学校に全国からの応援メッセージ。
大阪・鶴橋小学校からのものもありました。
この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する月刊社報誌『リフブレ通信』に連載中のコラム「落語の教え」を加工したものです。

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