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196.先代桂春蝶「最後の晩餐」~刺客?となった笑福亭福笑~

口さがない楽屋雀たちは、
笑福亭福笑師を指して、
「先代春蝶にとどめを刺した張本人」
だと噂する。


花團治襲名、繁昌亭、集合写真、福笑師匠
左から恩田繁昌亭支配人、笑福亭福笑、桂一蝶、桂花團治、桂梅團治、桂春雨。
花團治襲名記念公演(繁昌亭)にて。2015年5月。



故・二代目春蝶にとって最後の晩餐は平成4年大晦日の夜となった。
リビングで宴席の片づけをしていると、
「蝶六さん!救急車!!」
師匠の奥さんがありったけの大声でぼくに叫んだ。

師匠はトイレのなかで大量の吐血をしていた。

受話器を手にしたぼくはとりあえず119番。
同時に、すぐに家を出られるようにと
小銭入れの中身を確認した。
ひょっとして、ぼくも救急車に乗り込むことになるかも知れない。
携帯電話のない時代、誰かに連絡を取ろうと思えば
まず必要になるのが公衆電話用の小銭だった。
あの頃、10円玉は携帯電話やスマホと同じぐらいの意味があった。

ぼくがそうやって意外に落ち着いていられたのは、
師匠が救急車で運ばれるのは年中行事みたいなもので、
「いつもことだからまたすぐに戻って来られるだろう」
ぐらいの安心があったからだ。
でも、病院に着いて一日二日と経つうちに、
今度ばかりはどうもこれまでと様子が違うことを確信した。

それでも、病院内ではぼくや兄弟子らは努めて明るく振舞った。
それはマスコミ対策ということもあったし、
師匠の病状がかなり悪いということになると、
レギュラーを外されたり、師匠の今後の仕事の方にも
きっと影響が出るだろうと兄弟子らと決めたことだった。
どこでどう嗅ぎつけたか、新聞記者がぼくらを執拗に追いかけた。
「どうですのん、春蝶さんの容体は?」
「へえ、すぐに退院しはると思います。今も師匠と落語会の打ち合わせしてましてん」
全くの嘘だった。
師匠は会話どころか、酸素マスクを被せられ、
身体中チューブだらけで身動きできない状態だった。

春蝶、立ち切れ、縮小版
故・二代目桂春蝶。撮影:後藤清


話は戻って、最後の晩餐の夜、
師匠宅にいたのは師匠の家族とぼくだけだった。
例年通りなら、家族と一門が揃って除夜の鐘を聴くというのが、
お決まりだったが、その年に限って兄弟子らは不在だった。
「年明け早々に伺います」との返事だった。

リビングでは河豚鍋が湯気をあげていた。
「蝶六、アイツに電話をしてくれ」
こういう時、師匠が「アイツ」と呼ぶのは、
福笑師匠に決まっていた。
大晦日の晩にも関わらず、
福笑師匠は奥さんの運転する車ですぐに飛んでこられた。


師匠と弟子だけならたいがいポーカーや株といった遊びになるが、
福笑師匠がおられるときは、不思議とそうはならなかった。

芸談はもちろんのこと、社会情勢から人権問題、
ときには恋愛論などなど……酒を交わしながら二人の会話は多岐にわたった。
その頃、師匠はジャーナリストでもある「落合信彦」の小説にはまっていて、
50歳を過ぎてから夜間大学にわざわざ国際政治学を学びにいくほどだった。
そんな会話についていける咄家はそういない。

春蝶が「おれは河原の枯れすすき~」と
『船頭小唄』を口ずさめば、
福笑師は『加川良』を
しみじみアカペラで披露した。


二代目春蝶、ノック、たかじん、ざこば
関西テレビ『男の井戸端会議』の収録。左から桂春蝶、横山ノック、やしきたかじん、桂ざこば


ところが、最後の晩餐となったこの時ばかりは、
いつもとは全く様子が違っていた。
福笑師が言葉を投げかければ、それに対して、
すぐに必ず何かを返すはずの師匠がずっと黙ったきり。
ようやく口を開いたとて、その言葉と言葉の間に長い空白。
当然、酒もほとんど進まない。

「兄さん、今日は疲れてまっせ。休みはった方が…」
「ほなそうするわ。今日はおおきに」
珍しく師匠は、素直に福笑師のその言葉に従った。
でも、何か伝えたかったに違いない。
福笑師が帰る間際、師匠はずいぶん寂しそうだった。

春蝶のお墓2
石碑に刻まれた「春蝶」の文字は、生前、師匠がこよなく愛読した司馬遼太郎先生の筆によるもの。


最近になって、福笑師とこのときの話になった。

「あの日、ぼくが
嫁はんの車に乗って(春蝶宅から)帰る時や。
途中で救急車とすれ違ごたんや。
あれはきっと
春蝶兄さんを迎えに来たんやなって直感したな。
…やっぱりそうやったんか」


また、最後の晩餐では二人のこんなやり取りもあった。

「春蝶兄さん、今日はあんまりモノ言いまへんな」
「……福笑、人はな、世間というものが
見えてくれば見えてくるほど
寡黙になるもんやねん」



はたしてこれは
言葉が上手くでないということの照れだったのか、
あるいは、何かの悟りからでた言葉だったのか。
……今となってはわからない。


さて、「二代目春蝶生誕祭」を、
今年も師匠の誕生日10月5日に開催します。
生きてはったら満76歳、
喜寿のお祝いです。

ゲストには笑福亭福笑師匠。
そんなわけで、この続きは「繁昌亭」で。


二代目春蝶生誕祭2017-500
◆「二代目春蝶生誕祭」の詳細はここをクリック



花團治の宴2500
◆「花團治の宴-en-」の詳細はここをクリック





春蝶生誕祭2017バーナー

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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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