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200.センセ、着物って逆さに着たらアカンの?~落語の授業にて~

今年も夜間高校で「落語の授業」が始まりました。
10代から70代までの学生たち。
そこで投げかけられる素朴な疑問の数々が、
ぼくにとっては戦々恐々、また毎度の楽しみなのです。

桃谷授業風景

例えば、ぼくの雪駄を見た学生が、
「センセ、そのスリッパ、
サイズ小さいんと違う?」


雪駄というものは、足のかかとが少し出るぐらいでちょうどいいのですが、
馴染みのない学生には奇異に映るらしい。

「雪駄って、こんなもんやで」と返すものの、
これでは全く答えになっていない。


結局、家に持ち帰り、次回までの宿題ということになります。

よく「チャラチャラ音を鳴らして小粋に歩く」なんてことを言いますが、
あれは足の先に鼻緒を引っ掛けた形で、かかとは重視せずに歩くからこそ、
イイ音が鳴るのであって、鼻緒と鼻緒の間に指をギュッと入れて、
なおかつ、踵から歩くようにすると、とてもあの音は出せません。

そう言えば、吉田拓郎の『我が良き友よ』の歌詞に
「下駄を鳴らして奴が来る 腰に手拭ぶら下げて」というくだりがありました。


それに、江戸時代までの日本人は、
右手と右足を同時に出す「ナンバ」で歩いていた。
着てみればよくわかるが、着物は「ナンバ」でないとどうも具合が悪い。
「ナンバ歩き」は、極端にいえば、つま先立ち・すり足で歩いている状態。
機能的にかかと部分を支えるものは全く必要なく、見た目の美しさからも
「かかとがちょっとはみ出るぐらいが粋」ということらしい。


襲名宣伝、林幸治郎
石橋商店街を練り歩く「ちんどん通信社」。歩き方にもこだわりがある。



またあるときはこんな質問。

「センセ、着物の着方って決まってるの?」
「どういうこと?」
「着物の重ね方って、逆にしたらアカンの?」
「逆にしたら死んだ人やんか」と別の学生。

「それにしても何でやろな。
この方が懐に手が入れやすいのは確かやけど……」
「なら、左利きの人は逆でもええんと違う?」

畳みかけてくるなぁ、コイツ。


これも、さっそく家に帰って調べてみた。


着物を右前に着ることが定着したのは、
奈良時代の養老三年(719年)に出された「衣服令(えぶくりょう)」という法令に
「初令天下百姓右襟」(庶民は右前に着なさい)という一文以降とのこと。

この背景には中国の思想の影響があったんやそうですな。
「左の方が右より上位」であったことから、位の高い高貴な人にだけ左前は許され、
庶民は右前に着ていたとか。
それにならった聖徳太子がこれを日本でも普及させたというのです。

左前に着ると、どうも動きにくいということがありますが、
当時の高貴な人々は労働的な動作は必要がなく、
左前でも支障がなかったのでしょう。
庶民は労働の必要性からも、自然と右前になったというのが真相らしい。


ちなみに「右に出る者はいない」という言い方がありますが、
これは「家来側から見て」右に立つ者が優位ということ。
左に落とされると、つまり「左遷」ということになります。

また、「運が悪くなること、商売が傾くこと」を「左前」と言います。

鶴瓶、大看板400
そういえば、繁昌亭の前に立つ「まねき」も向かって一番右側が大看板。
序列でいえば、鶴瓶→学光→花團治→きん太郎の順になります。



数年前には、『トイレの神様』という歌がヒットしましたが、
当時、授業の初めにこの話題で盛り上がりました。
その日のテーマは「芸能と神事」。

一人の女性がフフッと笑いだしたので、
気になって問いかけてみると、
フィリピン出身でキリスト教信者だという彼女はこう言った。

「トイレの神様なんてクレージー。
神様は一人に決まってるじゃん」


日本では八百万(やおよろず)の神が当たり前だが、
キリスト教は一神教である。

なるほど、それぞれが色んな思いでこの曲を聴いているんだなぁ。


……とまあ、夜の学校はいつもこんな感じ。


さて、今年はどんな質問が飛び出すことやら。
90分の授業が全部で20コマ。
また眠れない日々が続きそうです。


おもちゃ映画ミュージアム20171110
知的オモロに盛り上がってみたいと思います。乞うご期待くださいませ。


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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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