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205.談論のすすめ~ディベート反対のためのディベート~

小中学校などに落語ワークショップで招かれるたび、
頻繁に聞かされるのが「子どもたちのコミュニケーション力低下」についてである。
と同時に、「自分の意見がはっきり言えない」ということもよく耳にする。
そういった背景が、まだ一部の学校だけとはいえ
ディベート教育の導入にも繋がっているのだろう。

ワークショップ(渡邉隆・撮影)縮小版
撮影:渡邊隆

「ディベート」とは、自分と意見が異なる相手と議論して説得させることを指すが、
小学生の頃に吃音症を経験しているぼくとしては何だか腑に落ちない思いでいる。
かつてぼくは落語家でありながら、ある小さな広告代理店に籍を置いていた。
友人である代表に頼まれ商品開発やイベントの企画会議に出席するうち、
いつしかぼくのデスクまで用意され、
落語会の制作もその代理店で行ってもらうようになったのだ。


そこでの会議にはひとつのルールがあった。
それは「相手の批判をしない」ということ。
どんなにつまらないと思うアイデアであっても絶対にそれを否定してはならない。
とにかく誰もが自由に話せる雰囲気がそこにはあった。
いわゆる「ブレスト(ブレインストーミング)会議」である。

「おおっ、それはオモシロイな!それならこういうのはどうだろう?」。
一人のアイデアに他の誰かが被せていく。
この繰り返しが予想外の企画を生み出した。

はづかし小学校、落語演じる蝶六
小学校で落語を演じる桂蝶六(現・桂花團治)


はづかし小学校、答える子ども
落語の下げとは、頓智クイズの答えのようなもの。
そこで、子どもたちにクイズを出してそれに回答してもらう。
ただし、ここでは全てが正解。くだらない方がオモシロイのである。



「上方落語協会」には寄席運営や普及活動などを目的に
いろんな委員会が設けられているが、
ぼくはそのうちの「情報誌編集委員会」「若手育成委員会」の二つに属している。
他は知らないが、少なくともぼくが属する委員会の風景は
会議というより井戸端会議といった方が相応しい。
「ああだ」「こうだ」と言いながら脱線の連続で笑いが絶えない。
それでいていつの間にかしっかりと着地している。
先述の広告代理店での会議もそうだが、
「三人寄れば文殊の知恵」とはまさにこのことである。

んなあほな会議4002
上方落語協会情報誌『んなあほな』の編集会議。
会議の大半は、もうどうでもいいようなハナシです。


冒頭に述べた「ディベート」についてまず頭をよぎるのは
「何をくだらないことを言ってるんだ」
と一蹴されたらどうしようという焦り。
それに、たとえ相手を言い負かせると分かった場合でも
「相手に恥をかかせてはいけない」という思い。

そういう時は「……なるほどそうですね。
ぼくも賛成です。でも、こうも考えられるのでは……」という手に出るのがぼくの常だ。

つまり、結果的に相手が導き出した結論として成立するように
持っていくようにしている。
自分の意見として通るか否か、勝ち負けなどは二の次である。
これは商人特有の「下駄を預ける」手法と似ているかも知れない。
「今日は何曜日やったかいな?」という客の質問に対して
「〇〇曜日です」と言い切るような応え方を大阪商人はしない。
「はて、今日は〇〇曜日と違いますか?」と問い掛けの形にして返すのが大阪商人。
客の方が「そうやった。今日は〇〇曜日やった」。
結論を相手に委ねることで相手に恥をかかせないといった商人の配慮であり知恵である。

劇作家の平田オリザさんはこう言っている。

「ディベート(討論)は、
話す前と後で考えが変わったほうが負け。
ダイアローグ(対話)は、
話す前と後で考えが
変わっていなければ意味がない」


花團治、阿弥陀池しんねこ
桂花團治(撮影:相原正明)

▶写真家・相原正明つれづれフォトブログ「七変化・桂花團治」
是非こちらをクリックしてご覧ください。



ちなみに、ブレスト(談論)では思いも寄らぬ考えが生まれたりするものだ。
平田オリザさんの言葉を元に言い換えるなら

「ディベートは、
どちらか一方の考えに落ち着くが、
ブレストは、予期せぬ考えにたどり着く」

といったところだろう。


また、「ディベートはどちらか一方の勝利だが、
ブレストは参加した全員の勝利」
ということもいえる。




人前に立つことに恐怖を覚えた小学生の頃のぼくが、
もしも無理やり授業で「ディベート」の場に立たされていたら
……想像しただけでゾッとする。

ますます吃音が悪化していたに違いない。
そんなわけで、「ディベート」も有意義だとは思うが、
その前にまず「ブレスト」の方をぼくは薦めたい。


この原稿は熊本のリフティングブレーン社が発行する『リフブレ通信』に連載させて頂いている
コラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。

『リフティングブレーン』の公式サイト



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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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