237.賛否両論バンザイ!~大阪万博2025ロゴマークに寄せて~
先日、大阪万博2025のロゴマークが発表された。
ネット上では「怖い」「気持ち悪い」といったコメントが飛び交っている。
なかには「これはコロナウイルスを模している」といった意見まで。
ぼく自身も最初にこれを見たとき、
思わず「何じゃ、こりゃ⁈」と口にし、
そのあと「わしは松田優作か」と一人ツッコミ。
けれども、今ではこのロゴがすっかり気に入ってしまった。
今にも動き出しそうで、生命そのものに見えてくる。
愛らしいこと、この上ない。

ロゴを作った大阪のデザイン事務所の代表は、
その発表の場で
「岡本太郎さんのようなオリジナリティのある作品を作ってみたかった」
とコメントしている。聞くところによると、作者は1965年大阪生まれの55歳、
1970年に開かれた万博の時は幼稚園児ということになる。
ぼくはあの頃小学2年生で、「月の石」を観るために
アメリカ館の前に2時間以上も行列に並んだ一人。
とりわけ岡本太郎・作「太陽の塔」の印象は強烈だった。
ロゴデザイナーもぼくもきっと同じ風景を見ていた。

現在の「太陽の塔」
ところで、パリにいた岡本太郎が
日本に帰国したのは戦争勃発が理由だった。
ドイツとフランスの関係が悪化したのだ。
岡本にとっておよそ10年のヨーロッパ生活はピカソとの出会いもあり、
とても充実していたが、帰国した岡本を待ち受けたものは
「伝統」とレッテルの貼られた日本文化の弱々しさやその陰性だった。
岡本はこれにひどく失望している。
そんな折、
目に飛び込んできたのが縄文土器だった。
「弥生土器は農耕生活と共に作られているが、
縄文土器はそれよりも以前、
狩猟時代に作られている。
カレンダーによる周到な計算と
忍耐づよい勤勉が良しとされた農耕生活とは違い、
狩猟生活は獲物を求めて
常に移動せねばならず、未知の世界への探検。
また、縄文土器はそんな社会的背景が生んだのだ
(『日本の伝統』光文社知恵の森文庫)と岡本はいう。

東京・南青山「岡本太郎記念館」
縄文土器には不協和のバランスがあり、
知能的にも技術的にも幼稚だった石器時代に、
これほどまでにあざやかにするどく、
完璧に空間が把握されている。
それは、獲物を察知し、
的確に位置を確かめ掴む必要があったからこそ
こうした感覚を育むことができた、と岡本は主張している。
1970年に岡本太郎が「太陽の塔」を制作したとき、
万博のテーマは「人類の進歩と調和」だった。
岡本いわく
「調和とは
お互いがぶつかり合うことだ」
まさに縄文土器そのものだった。

東京・南青山「岡本太郎記念館」岡本太郎のアトリエ
一方、今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。
作者はロゴのコンセプトについてこう述べている。
「踊っている。跳ねている。
弾んでいる。だから生きている(以下略)」。
どちらも生命体の躍動するさまが連想される。
お行儀よく収まってはいない。
しかし、ちゃんと調和がとれている。
これもまた縄文土器だった。

筆者(撮影:坂東剛志)
岡本太郎が「太陽の塔」を発表したときも、
世間の多くが「変だ」「気持ち悪い」と反応した。
けれども、あの塔が70年万博の象徴となり、
今や堂々たるランドマークになっている。
今回もまた世間の反応は徐々に変わってくるのだろう。
ぼくも思わず「何じゃ、こりゃ⁉」と声にした一人だが、
作者の意図からすればそういったことも十分に想定していたはず。
はたしてこのロゴが世間のなかでどう育っていくのか。
賛否両論が巻き起こる作品には「力」がある。
……とここまで書いて、師匠(先代桂春蝶)の言葉を思い出した。
「嫌われもせん奴は好かれもせん」。
“太郎イズム”バンザイ!
※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。

◆「上方落語ルネッサンス」詳細はこちらをクリックしてくださいませ。

◆「ヴィヴァルディと日本の四季」の詳細はこちらをクリックしてくださいまし。

◆「バッハの見た夢」の詳細はこちらをクリックしてくださいませ。
◆「花團治公式サイト」はこちらです。
ネット上では「怖い」「気持ち悪い」といったコメントが飛び交っている。
なかには「これはコロナウイルスを模している」といった意見まで。
ぼく自身も最初にこれを見たとき、
思わず「何じゃ、こりゃ⁈」と口にし、
そのあと「わしは松田優作か」と一人ツッコミ。
けれども、今ではこのロゴがすっかり気に入ってしまった。
今にも動き出しそうで、生命そのものに見えてくる。
愛らしいこと、この上ない。

ロゴを作った大阪のデザイン事務所の代表は、
その発表の場で
「岡本太郎さんのようなオリジナリティのある作品を作ってみたかった」
とコメントしている。聞くところによると、作者は1965年大阪生まれの55歳、
1970年に開かれた万博の時は幼稚園児ということになる。
ぼくはあの頃小学2年生で、「月の石」を観るために
アメリカ館の前に2時間以上も行列に並んだ一人。
とりわけ岡本太郎・作「太陽の塔」の印象は強烈だった。
ロゴデザイナーもぼくもきっと同じ風景を見ていた。

現在の「太陽の塔」
ところで、パリにいた岡本太郎が
日本に帰国したのは戦争勃発が理由だった。
ドイツとフランスの関係が悪化したのだ。
岡本にとっておよそ10年のヨーロッパ生活はピカソとの出会いもあり、
とても充実していたが、帰国した岡本を待ち受けたものは
「伝統」とレッテルの貼られた日本文化の弱々しさやその陰性だった。
岡本はこれにひどく失望している。
そんな折、
目に飛び込んできたのが縄文土器だった。
「弥生土器は農耕生活と共に作られているが、
縄文土器はそれよりも以前、
狩猟時代に作られている。
カレンダーによる周到な計算と
忍耐づよい勤勉が良しとされた農耕生活とは違い、
狩猟生活は獲物を求めて
常に移動せねばならず、未知の世界への探検。
また、縄文土器はそんな社会的背景が生んだのだ
(『日本の伝統』光文社知恵の森文庫)と岡本はいう。

東京・南青山「岡本太郎記念館」
縄文土器には不協和のバランスがあり、
知能的にも技術的にも幼稚だった石器時代に、
これほどまでにあざやかにするどく、
完璧に空間が把握されている。
それは、獲物を察知し、
的確に位置を確かめ掴む必要があったからこそ
こうした感覚を育むことができた、と岡本は主張している。
1970年に岡本太郎が「太陽の塔」を制作したとき、
万博のテーマは「人類の進歩と調和」だった。
岡本いわく
「調和とは
お互いがぶつかり合うことだ」
まさに縄文土器そのものだった。

東京・南青山「岡本太郎記念館」岡本太郎のアトリエ
一方、今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。
作者はロゴのコンセプトについてこう述べている。
「踊っている。跳ねている。
弾んでいる。だから生きている(以下略)」。
どちらも生命体の躍動するさまが連想される。
お行儀よく収まってはいない。
しかし、ちゃんと調和がとれている。
これもまた縄文土器だった。

筆者(撮影:坂東剛志)
岡本太郎が「太陽の塔」を発表したときも、
世間の多くが「変だ」「気持ち悪い」と反応した。
けれども、あの塔が70年万博の象徴となり、
今や堂々たるランドマークになっている。
今回もまた世間の反応は徐々に変わってくるのだろう。
ぼくも思わず「何じゃ、こりゃ⁉」と声にした一人だが、
作者の意図からすればそういったことも十分に想定していたはず。
はたしてこのロゴが世間のなかでどう育っていくのか。
賛否両論が巻き起こる作品には「力」がある。
……とここまで書いて、師匠(先代桂春蝶)の言葉を思い出した。
「嫌われもせん奴は好かれもせん」。
“太郎イズム”バンザイ!
※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。

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