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239.それしかないわけないでしょう~大人はけっこう間違える~

ホテルのフロントに一本の電話が入った。
「ホテルのバーはいつ開くか」という問い合わせだった。
それに対し、ボーイは「午前10時でございます」と応えた。
すると、その1時間後に同じ客から全く同じ問い合わせ。
当然ボーイは「午前10時でございます」と同じように応えた。
しかしそれからまた1時間経って全く同じやりとり。
とうとう我慢に達したボーイは
「10時までお客様をお入れすることはできません!」と
強い口調でどなってしまった。すると、電話の主はこう応えた。

……「俺は(バーから)出たいんだ」。


これは定番ジョークのひとつ。
聴き手の多くは「この客はホテルの部屋から掛けているのだろう」という
思い込みにとらわれる。
それを裏切ることでオチが成立する。
つまり、このように「相手が思い込みをするように誘導しておいて、
それを裏切る」のがジョークである。

落語もまた同様だ。

落語家と詐欺師は紙一重、
裏切ったあとに笑えるかどうかの違い。



花團治、頼んまっさ (2)
筆者(撮影:坂東剛志)



思考は、大きく「垂直思考」(ラジカルシンキング)と
「水平思考」(ラテラルシンキング)
の二つに分けられる。

物事を深く彫り上げて考えるのが「垂直思考」なら、
物事を違った角度から見るのが「水平思考」。


どちらも大事だが、「こうあらねばならない」と強い信念をもった者ほど
「垂直思考」に偏り、他人の言うことに耳を傾けない傾向にある。
そういう方ほど落語がお薦め。
落語やジョークは「水平思考」の宝庫なのだ。



主宰する落語教室「愚か塾」には
何かしらコンプレックスをもって入塾される方が多いが、
それはおそらくぼく自身が
自身の協調性や吃音に悩んでいたということもあるのだろう。

つい先日も「上司から”お前は頭が固いから落語でも聴け”と言われたのがきっかけです」
という方が入られた。
ぼくも中学生の頃に級友から「お前はなんでそんなに視野が狭いねん」と
言われたことがあるが、
それが落語を演じるようになった遠因であることは否めない。

「咄家殺すに刃物は要らぬ、あくびひとつで即死する」という
都々逸の文句があるが、
あくび以上に「お前は視野が狭い」とか
「頭が固い」という言葉の方がぼくには余程堪える。



そんなぼくが最近はまっているのがヨシタケシンスケの絵本。
子どもに読み聞かせる本を探していてたまたま出会ったのだが、
今話題の絵本作家らしい。
なかでもお気に入りが「それしかないわけないでしょう」という一冊。


それしかないでしょう表紙


 「おとうさんは晴れるっていってたけど、
大人のいうことはけっこうはずれるな」と
窓の外をにらみながらプンプンする女の子。
そこへ小学生のお兄ちゃんが帰ってくる。「ねえねえ知ってる?
未来はたいへんなんだぜ。食べ物がなくなったり、
病気がはやったり、戦争がおきたり、宇宙人がせめてきたり…」。
それにショックを受けた女の子はおばあちゃんの元へ。
「おばあちゃん、未来がたいへんなの?」。

すると、おばあちゃんは
「未来がどうなるかなんて、だれにもわからないから。
大変なことだけじゃなくて、
楽しいことやおもしろいこともたーくさんあるんだから」。

それから、いろんな未来を妄想する女の子。
「毎日ウインナーの未来、一日中パジャマでもいい未来、
毎日土曜日はクリスマスの未来…」。

そして、女の子の思考は新たな境地へと踏み出していく。

「”好きか嫌いか”とか、
”良いか悪いか”とか、
”敵か味方か“とか聞かれるけど、
どっちかしかないわけないわよねー」

(本のなかではすべて平仮名表記)。

いやはや参った。

「大阪市存続か、廃止か」
「命か、経済か」
を連呼する我々大人こそ読まねばならない絵本ではないか。


これまでの常識が常識であり続けるとは限らない。
その傾向がますます加速し続けている今日。
だからこその水平思考、やわらかアタマ。
ぜひヨシタケシンスケの絵本を開いてみて欲しい、
そしてあわよくば落語会に足を運んでもらいたい、
と切に願っている。




※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。




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コメント
60:絵本 by souu on 2020/12/19 at 09:55:21 (コメント編集)

この本探しに行って来ましょう。
そして落語会にも行きましょう!って大阪へ行く事を
躊躇っている奈良の住民です。

プロフィール

蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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