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240.うちのムスメは何でも食らう~優しい文化を召し上がれ~

近頃はコロナ禍の影響もあって
自宅で過ごすことがずいぶん増えた。
我が家はヨメはんと2歳半になる娘との3人家族。
娘はぼくのことをよく観察しているのかすぐに真似をしたがる。

例えば、稽古場の高座に座って落語の真似事。
まるでルーティンワークのように「寿限無」の文句に始まり、
落語らしき文言を唱え出すようになった。
ひとしきりそれが終わると、今度はぼくに向かって
「(次は)おとーしゃん、(稽古を)どうぞ~」と言って場所を譲ってくれる。

稽古嫌いなぼくが少しは稽古をするようになったのは、
これはもうムスメのおかげと言うほかない。

また、彼女はテレビが好きでこれもぼくの影響を受けている。
実は寿限無の文言もぼくからではなく、
Eテレの番組で覚えてしまった。

それにしてもEテレの番組クオリティの高さには驚かされる。
つい先日見た幼児向け番組のなかで将来の夢を語る場面。
女の子には「パイロットでも科学者でもなれる」と
年輩のキャラクターが語り掛ける。
これまでならさしずめ「保母さんでも看護師さんでも」と
言っていたところだろう。
のろまな性格に悩む男の子には「ゆっくり成長していけばいい」。

男はこうあるべき、女は…といった
ステレオタイプで偏った考えにならないよう細かいところまで配慮されている。

うちの娘は、靴下の履き方、歯の磨き方、手の洗い方等々…、

みんなテレビで教わった。


詩の稽古
落語の稽古に興じる我がムスメ


しかし、ぼくのテレビ好きの影響はいいことばかりではなさそうだ。
先日、テレビアニメ「鬼滅の刃」で主人公が人を殺めるシーンに
固唾を飲んでのめり込んでいるムスメを見たとき、ぼくは思わずぞっとした。

考えすぎだと言われるかも知れないが、
「上方芸能」の元編集長・木津川計先生のこんな言葉が胸に沁みる。

子どもは文化を食べながら成長し、
おとなは文化をつくりながら
子どもを支配するのです。
ですが、
おとなたちの支配や満足のために
子どもの成長を
損なっていいものでしょうか。
優しさとしての文化、
その擁護者になるには、
子どもの頃からできるだけ
優しい文化を食べることなのです


(上方芸能と文化、NHK出版)

木津川先生と (2)
向かって左が木津川計先生、右が筆者。



12年程前だったか、
大阪シナリオ学校で事務局長を務めていた
井上満寿男氏からはこんな話を聞いた。

「私が子供の頃、
映画館も演芸場もどこか怖いイメージがありましたな。
いわゆる悪所でね、女・子どもは行ったらいかんて言われました。
演芸場かて卑猥で猥雑な内容ばっかりでね、

娯楽場って呼んでましたわ。
”娯楽”ってどう書きます?
…そう、女が呉れたら楽しい

つまり”女の話をして呉れたら楽しい”。
いわゆるエログロというやつです」


そんなエログロな演芸場を改革したのが、
後にこの大阪シナリオ学校を立ち上げた秋田實先生だった。
ラジオ局の開局に伴い、
番組案として浮かんできたのが漫才だった。
しかし、先に述べたように当時の漫才はエログロで
とても公共の電波に耐えうるものではなかった。

そこで秋田實先生が
「小さな子供から
お年寄りまでが
安心して笑える漫才」
を書き、

横山エンタツ・花菱アチャコといった漫才師たちが演じるようになった。
これがお茶の間の笑いへと繋がっていったのだ。

何を笑うかでその人の性格がわかるというが、
その逆も然り。
どういう笑いを食べるかで
その人格が形成されていく。




詩の駐車禁止


はたしてぼくの興味の赴くままに
様々な番組を子どもの目に触れさせていいものか。
うちのムスメはことのほか雑食だ。
どんな文化も、どんな笑いも、
目の前にあるものは何でも摂取していく。

もちろんぼくの落語も変な癖も。

いっそのこと、反面教師と開き直ろうか
…というわけにもいくまい。

今日もムスメは稽古場から漏れてくるぼくの落語を聴いている。


どうか胃もたれしませんように。(了)



※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。




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コメント
61:可愛い! by souu on 2021/01/12 at 13:46:56 (コメント編集)

お楽しみですね〜
いろんなものを吸収して立派な大人になる
落語家かもしれませんね

プロフィール

蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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