243.つぶれない店のヒミツ~こうしてぼくはズブズブになった~
未分類 - 2021年04月08日 (木)
誰にだってあまり他人に教えたくない店のひとつやふたつあるだろう。
そっと隠れ家にしておきたいバーとか、
めちゃくちゃ美味なのに穴場のような焼き鳥屋さんとか…。
もしも大勢の目に触れて流行りだしたがために
気軽に行けなくなってしまうと嫌だけど、
絶対につぶれて欲しくない。ぼくにとってそんな店がまたひとつ現れた。

その酒屋はある知人が紹介してくれた。
「そう言えば、あんたの近所にはとても良い店がある。
ここで買うとまず間違いがない。
地味な店なので気をつけてない探さないと通り過ごしてしまうけどな」
なるほどそこはぼくがよく通っている道沿いにあった。
やはり見過ごしていたのだ。
どこの町にもある昔ながらの小さな店構え。
目立った看板があるわけでもない。
ガラス張りの引き戸をガラガラと開けて入ると
薄暗い店内の左手に日本酒専用の大きな冷蔵庫。
それだけ。そう、ここは日本酒専門の店なのだ。

木村酒店(大阪市東成区中道3-9-28)
取り扱っている酒蔵は現在15蔵ほど。
決して多いとは言えない品揃えだが、
「幻の銘酒」がフツーに並んでいたりする。
「へぇぇ、このお酒も置いてるんですね」と問いかけると、
初老の店主は照れくさそうに
「えぇ、まだこれほど有名になる前からのお付き合いでして」。
すべて問屋を通さず直接買い付けていて、
仕入れさせてもらうのに造り酒屋に通い続け
10年掛かったという酒も置いてあったりする。

酒蔵はどの酒屋にも卸すわけではなく、
信用がなければおいそれと分けてはくれない。
冷蔵庫に保管すべき酒を常温で放置したためにマズい酒として売られ、
評判を落としてしまうことになっては杜氏の苦労も水の泡だからだ。
「今も10年ほど通い続けてるところがあって…、
そのうちきっと入れさせてもらおうと思ってます」
ここで扱っているのは、全て店主自身が「イイ!」と思ったものだけ。
いわば日本酒のセレクトショップなのだ。
しかし、そんな店にもワインが一種類だけ置いてあった。
理由を尋ねると、
「いやぁお客さんがどうしても仕入れて欲しいって言うので
取り寄せてみたんですがイケたんですよね」
この柔軟性もまた店の魅力のひとつかもしれない
「これ、日本ワインですねん」
「日本ワイン?」
「ええ、国産ワインではなくて日本ワイン。
海外から輸入したブドウを使用して日本で作るワインが国産ワインで、
国産ブドウ100%で国内製造されたのが日本ワインです」
その特徴やワイナリーのこだわりを訥々と喋り出した。
決して饒舌ではないが誠実に、しかもひとつひとつの酒を、
まるで我が子のように語る店主との時間はとても心地よく、
ついつい財布の紐が緩んでしまう。
おそらく同じようなファンが多いのだろう
「これは次回に取っておこう」なんて買わずにいると、
次に来たときには別の顔が並んでいる。

木村酒店の店主・木村眞左夫さん(左)と筆者
この酒屋もかつてはビールから焼酎まで
いろんな酒を一手に扱う普通の酒屋さんだった。
創業80年ほどだが日本酒専門になったのはかれこれ20年ぐらい前。
三代目の今の店主の代になってガラリとやり方を変えた。
安売り競争となっている酒屋業界において、
このままでは体力が持たないし、
量販店につぶされてしまうと一念発起した。
先日、この店の写真をSNSにアップした。
近所にある「隠れ過ぎた名店」を自慢したい気持ちが、
他人に教えたくないという思いに勝ってしまったのだ。
すると、有名ホテルでシェフをしていた友人など
酒にうるさい連中からすぐに質問攻めにされた
「スゴイ目利きの店主ですね。
冷蔵庫を見ただけで充分わかる。どこにあるか教えて?」
そんなお店だが、コロナ禍での「緊急事態宣言」
そして「まん延防止等重点措置」で飲食店の営業時間が短縮されたことが
売り上げにもダイレクトに響いているという。
個人消費で少しでも役に立てれば…と精を出すぼく。
「こっちの家計の方が先につぶれてしまうわ…」
と嫁はんに嘆かれながら、店主の目利きに酔いしれている。

※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。

※「春團治まつり」の詳細はこちらをクリックくださいませ。
※花團治公式サイトはここをクリック!
そっと隠れ家にしておきたいバーとか、
めちゃくちゃ美味なのに穴場のような焼き鳥屋さんとか…。
もしも大勢の目に触れて流行りだしたがために
気軽に行けなくなってしまうと嫌だけど、
絶対につぶれて欲しくない。ぼくにとってそんな店がまたひとつ現れた。

その酒屋はある知人が紹介してくれた。
「そう言えば、あんたの近所にはとても良い店がある。
ここで買うとまず間違いがない。
地味な店なので気をつけてない探さないと通り過ごしてしまうけどな」
なるほどそこはぼくがよく通っている道沿いにあった。
やはり見過ごしていたのだ。
どこの町にもある昔ながらの小さな店構え。
目立った看板があるわけでもない。
ガラス張りの引き戸をガラガラと開けて入ると
薄暗い店内の左手に日本酒専用の大きな冷蔵庫。
それだけ。そう、ここは日本酒専門の店なのだ。

木村酒店(大阪市東成区中道3-9-28)
取り扱っている酒蔵は現在15蔵ほど。
決して多いとは言えない品揃えだが、
「幻の銘酒」がフツーに並んでいたりする。
「へぇぇ、このお酒も置いてるんですね」と問いかけると、
初老の店主は照れくさそうに
「えぇ、まだこれほど有名になる前からのお付き合いでして」。
すべて問屋を通さず直接買い付けていて、
仕入れさせてもらうのに造り酒屋に通い続け
10年掛かったという酒も置いてあったりする。

酒蔵はどの酒屋にも卸すわけではなく、
信用がなければおいそれと分けてはくれない。
冷蔵庫に保管すべき酒を常温で放置したためにマズい酒として売られ、
評判を落としてしまうことになっては杜氏の苦労も水の泡だからだ。
「今も10年ほど通い続けてるところがあって…、
そのうちきっと入れさせてもらおうと思ってます」
ここで扱っているのは、全て店主自身が「イイ!」と思ったものだけ。
いわば日本酒のセレクトショップなのだ。
しかし、そんな店にもワインが一種類だけ置いてあった。
理由を尋ねると、
「いやぁお客さんがどうしても仕入れて欲しいって言うので
取り寄せてみたんですがイケたんですよね」
この柔軟性もまた店の魅力のひとつかもしれない
「これ、日本ワインですねん」
「日本ワイン?」
「ええ、国産ワインではなくて日本ワイン。
海外から輸入したブドウを使用して日本で作るワインが国産ワインで、
国産ブドウ100%で国内製造されたのが日本ワインです」
その特徴やワイナリーのこだわりを訥々と喋り出した。
決して饒舌ではないが誠実に、しかもひとつひとつの酒を、
まるで我が子のように語る店主との時間はとても心地よく、
ついつい財布の紐が緩んでしまう。
おそらく同じようなファンが多いのだろう
「これは次回に取っておこう」なんて買わずにいると、
次に来たときには別の顔が並んでいる。

木村酒店の店主・木村眞左夫さん(左)と筆者
この酒屋もかつてはビールから焼酎まで
いろんな酒を一手に扱う普通の酒屋さんだった。
創業80年ほどだが日本酒専門になったのはかれこれ20年ぐらい前。
三代目の今の店主の代になってガラリとやり方を変えた。
安売り競争となっている酒屋業界において、
このままでは体力が持たないし、
量販店につぶされてしまうと一念発起した。
先日、この店の写真をSNSにアップした。
近所にある「隠れ過ぎた名店」を自慢したい気持ちが、
他人に教えたくないという思いに勝ってしまったのだ。
すると、有名ホテルでシェフをしていた友人など
酒にうるさい連中からすぐに質問攻めにされた
「スゴイ目利きの店主ですね。
冷蔵庫を見ただけで充分わかる。どこにあるか教えて?」
そんなお店だが、コロナ禍での「緊急事態宣言」
そして「まん延防止等重点措置」で飲食店の営業時間が短縮されたことが
売り上げにもダイレクトに響いているという。
個人消費で少しでも役に立てれば…と精を出すぼく。
「こっちの家計の方が先につぶれてしまうわ…」
と嫁はんに嘆かれながら、店主の目利きに酔いしれている。

※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。

※「春團治まつり」の詳細はこちらをクリックくださいませ。
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