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252.仁鶴師匠と敏江師匠~二代目春蝶生誕祭に寄せて~  

生前、ぼくの師匠の二代目桂春蝶がぽつりと呟いた。

「春輔兄さんは後世ずっと
語られることになるけど、
わしが死んだらすぐに
忘れられるんやろな」



春輔兄さんとは奇行エピソードが尽きることのない「伝説の落語家」

この言葉が脳裏にずっと残っていたぼくは、師匠が亡くなって20年を越えた頃、
兄弟子の桂一蝶や師匠の子息である大助こと当代春蝶に相談した。

ここから師匠の誕生日である10月5日に、
毎年「二代目春蝶生誕祭」を開催することになった。

めったに一緒にならない一門(といっても一蝶兄だけなのだが)と
三代目春蝶と集い、思い出話に花を咲かせる座談会つきの落語会である。


fc春蝶生誕祭、左から春蝶、一蝶、花團治_convert_20211017094249



毎回、縁の深い方にゲストとして出演してもらっているが、
いつかはと思っていた方がここ数日、相次いで亡くなられた。


笑福亭仁鶴師匠(8月17日没)そして、正司敏江師匠(9月18日没)。
それぞれの享年が84と80。
うちの師匠は生きてはったら80歳なので、
まさしく同時代を生きた師匠方である。


ぼくが春蝶に入門してすぐの頃、
仁鶴、ざこば、八方の御三方が春蝶宅で麻雀に興じるということがよくあった。
今、目の前に人気者たちがいる!そのことに、当時二十歳のぼくはおおいに興奮した。
麻雀に興じる師匠方のために水割りを作ったり、オニギリを握ったり…、
雑用をこなしながらも、師匠方の会話をひと言も漏らすまいと耳をダンボにした。

ざこば師匠は牌を取るたび鼻息荒く、
黙々とゲームを続ける春蝶や八方師匠とは極めて対照的だった。
そんななかで仁鶴師匠の麻雀はいかにも楽し気で、
チャンチャーンチャカチャカチャンチャン…という鼻歌が飛び出した。
運動会でよく耳にする「天国と地獄」という曲である。
そして時おり、牌を取るときに
「どんなんかなぁ~」
という
あのギャグのフレーズをやってくれた。

ぼくは笑いをグッと堪えつつ肩を震わせた。
そのときチラリとぼくを見やる仁鶴師匠と目が合った。
師匠は目の奥でニヤリと笑い、素知らぬ顔で牌を並べた。

fc仁鶴_convert_20211017095929


それから30年後、ぼくが蝶六から花團治を襲名する際にご挨拶に伺うと、
テレビで見るあの穏やかな表情で優しく口調でこう話された。

「春蝶さんが亡くなったのは
…あぁそうか。もうそないなりますか。
惜しい人を亡くしました。
それでいくつやったかなぁ
…あぁそうか51歳でしたか?
志半ばにして亡くなったんやね」



その顔にはあの「ニヤリ」のような茶目っ気は微塵もなく、
遠い昔を懐かしむような目をされていた。
そしてぼくの目をしかと見据え、

「君は春蝶さんの遺志を
継いでいく責任がある。
これからも精進するように」



落語界を背負ってきた自負がにじむ重みのある言葉だった。

正司敏江


敏江師匠と初めてお会いしたのは道頓堀の角座の楽屋だった。
ぼくが入門を乞いに行ったとき、
その場にたまたま居合わせた、という縁である。
その頃弟子を破門にしたばかりの二代目春蝶は
「金輪際、弟子は取らん」と公言していたらしく、
ぼくを弟子に取ることをかなり渋っていた。

すると、敏江師匠が横から春蝶の顔を覗き込み、

「春蝶くん、ええ子やんか、
取ったりぃなぁ~。
いや、この子はええと思うよ」


なかなかの「圧」がある物言いに、春蝶もタジタジ。
もちろん敏江師匠とぼくはその日が初対面だったのにもかかわらず、だ。


後でご本人に聞くと、どうやら何の確信もなく、
その場のノリで言っただけとのこと。

「あんた、捨てられた子犬みたいに
思いつめた顔をしてたんやもん。
可哀そうに思うてな」


ともあれ、ぼくは敏江師匠のおかげで入門できた。


今ごろ、敏江師匠は
「姉ちゃんのせいでとんでもない弟子を取ってしもうたやないか」と
うちの師匠にぼやかれていることだろう。

仁鶴師匠とうちの師匠はきっと雀卓を囲んでいるに違いない。
師匠の元に堂々と顔向けできるよう、しっかり精進します。


この原稿は、「二代目春蝶生誕祭~生きてはったら80歳」のパンフレットのために書き下ろしたものに、
加筆・修正したものです。




fcあやめ・花團治ふたり会_convert_20211017100343

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Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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