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262.地雷を踏んだ「自称イクメン」~「ぼく食べる人」から半世紀…~

その日、ぼくはいつものように洗濯物を取り込み、
昼食の片づけと晩御飯の下ごしらえを終えた。
それからふらりと家を出て、散歩がてらネタを繰り、
喫茶店で原稿の下書きをしながら2時間ほど過ごした。

自宅に戻ると4歳のムスメは「パパ―!」と笑顔で迎えてくれたが、
どうもヨメの機嫌が思わしくない。
これほど家事をしているのになぜ怒るのか。
「私がアンタと同じ行動を取ってもいいのかしら?」。
そう問われてもぼくは理解できず、ただポカンとするばかりだった。

花團治、そ、それは
筆者・桂花團治(撮影:坂東剛志)


かつてインスタントラーメンのCMで
「わたし作る人・ぼく食べる人」
というフレーズが話題になった。

昭和50年(1975年)のことである。
ラーメンの置かれたテーブルの前で女性が「わたし作る人」と言い、
続けて男性が「ぼく食べる人」と言う。

実はこのCM、放映されたのはたった二ヶ月間。

「性別役割分担の固定化につながる」
という婦人団体からの抗議があったらしい。

あれから47年、ジェンダーに関する社会の関心度は高くなったが、
今だ騒がれるのは状況にさほど変化がないということだろう。
世の男性は今も地雷を踏み続けている。

例えば、「家事を(育児を)手伝うよ」というひと言。
言うまでもなく、
家事や育児は女性が担うものという意識がそのまま表れた結果に他ならない。

「主婦」という概念が生まれたのは大正期から昭和にかけてのこと。
世の中の高度成長に伴い地方から都会へ人が流れ、
男性サラリーマンと専業主婦という組み合わせが生まれた。
しかし、その専業主婦も今や減りつつある。

ある調査によると、専業主婦を選ぶ未婚女性は
もはや全体の一割にも満たないらしい。

また、未婚女性が結婚相手に求める条件は、
一位が家事や育児の能力、二位が女性の仕事への理解で、
経済力は三位
だとか。昭和生まれのぼくから見れば驚きの連続だが、
この条件でいえば、自分で言うのも何だが、
ぼくは理想の結婚相手に近い。

炊事や洗濯、掃除等のスキルはそこそこ自信があるし、
育児だって結構やっている。
……とはいえ、ぼくの家事能力は
二回に及ぶ結婚生活の破綻の末に養われたものだから
決して褒められたものではないのだが。

fc詩、お店やさんごっこ_convert_20220813232545
4歳のムスメとお店屋さんごっこに興じる筆者




ところで、落語家“桂花團治”は家内工業で成り立っている。
経理や仕事先とのメール対応などの事務作業全般に関し、
うちのヨメは実に長けている。
ぼくはと言えば、メールの返信に半日かかってしまうポンコツ。
それで必然的にデスクワークは女房の担当となった。

彼女がパソコンに向かっている傍らで、
ぼくは炊事や洗濯、掃除に勤しむというのが我が家の日常。
晩ご飯も自宅にいる限りぼくが担当している。
コロナ禍で仕事が減ったぶんキッチンに立つ機会も増えた。


冒頭の“事件”の日も彼女は
ぼくの仕事に関するデスクワークをこなしてくれていた。

「今日は予定の半分しか仕事が進まなかった。
出掛けるなら何でひと言私に確認してくれないの?」
そこまで言われて、ヨメは今まで一度も
ぼくに無断で外出したことがないことに気がついた。

「買い物に行くから30分間、子どもを見ててね」
「病院が混んでたら、帰りは昼過ぎになるけど大丈夫?」という具合。
だからぼくもヨメがいない時間だけは子どもに掛かりきりになるが、
その他は家事も稽古も自由に進められる身になれていたのだ。

反対にヨメにとってはムスメが幼稚園に通う時間と
ぼくの在宅時間だけが貴重な仕事時間。

なのに勝手に出掛けるというのは「育児は女房の役割」という意識の表れであり、
「アンタは気が向いた時だけ育児する」とぼやかれた。


fc詩、4歳バースディケーキの前で_convert_20220813232512
筆者とムスメ


「しっかり女房に、うっかり亭主」を笑っていられるのは落語の世界だけだ。

育児は手伝うものではない。
夫婦それぞれが当事者でなければならない、ということを思い知らされた。
心のどこかでイクメン気取りだった自分に思わず紅顔した。

そもそもイクメンという言葉自体がおかしいのかもしれない。

「理想の結婚相手」にはまだまだ遠い。


※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。



花團治・研究紀要(論文)はこちらをクリック!




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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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