268.パワハラマンション~壁に耳あり、近所にヒヤリ~
最近、我が家の周りはマンションの建設ラッシュだ。
古い空き家が解体されるやいなや、
ひょろっと細長いワンルームマンションが建つ。
背景には、二駅先への大学キャンパス誘致の決定と、
2025年開催の大阪万博があるようだ。
確かにここは万博会場へ通うに便利な場所なので、
建設従事者やパビリオン関係者の常駐・宿泊先にもってこいだ。
まだまだマンションが必要らしく、
ご近所さんの元にも土地売却の話が頻繁に持ち込まれているらしい。
「わたし、このような者ですが…」
ビシッと決めたスーツ姿で、大手不動産会社の名刺を差し出す営業マン。
「今、あちらのマンションを建設中でして…」
これを聞くなり、ご近所さんははっきり断ったという。
「おたくにだけは絶対売りまへん!」
ご近所さんが拒絶した理由、
それは建設中のマンションの施工業者のマナーにあった。
例えば、現場の前を通るたび聞こえてくる罵倒の声。
「おいこらオッサン!
お前、何年この仕事をやっとんねん!
もう引退したらどうや!」

……現場のミスは命取りになるだろうから
口調がキツクなるのも当然かもしれない。
とはいえ、あまりにも酷い言いぐさ。
怒鳴っているのは2~30代の現場責任者らしき兄ちゃんで、
怒鳴られているほうは初老の作業員。
あまりに頻繁に聞こえてくるので、
いつしか近隣ではパワハラマンションと呼ばれるようになった。
それに加え、ゴミ処理の雑さ。
小学校や幼稚園にも程近い現場の前には、
いつも無造作にコンクリートとプラスチックの混在した瓦礫、段ボールなどが
無造作に積まれていて、いつ崩れて事故につながってもおかしくない。
もちろんそんな建築現場ばかりではなく、
そこから百メートル離れたところの別の施工業者の現場では、
いつもゴミが整理整頓されていて、どの作業員も礼儀正しい。
「あっちのマンションの会社やったら考えてみてもええけどな」とは
件のご近所さんの弁。
施工業者のマナーが、新規マンション建設のチャンスを不意にしたというわけだ。

筆者(桂花團治)も昨年に還暦、芸歴40年を迎えました。(撮影:坂東剛志)
住宅密集地に住む以上、工事の騒音は致し方ない。
我が家も数年前に大規模なリノベーションを行い、
近隣の方々にかなりご迷惑をお掛けした。
担当してくれた施工業者はご近所へのご挨拶を丁寧に行うだけでなく、
日々のきめ細やかな掃除、そして喫煙時は少し離れた指定の場所まで足を運ぶ、
などしっかりマニュアル化されていた。
「徹底してますなぁ」とぼくが声を掛けると、
「わたしら工事が終わったら次の現場ですけど、
森さん(ぼくの本名)はこれからもずっとですから…」と
リノベーション専門業者だからこその
「住み続ける人」への気遣いにあふれていた。
現に、その様子を目にした人から「うちも紹介してほしい」という言葉をいただいた。

我が家を担当してくれたスタッフの皆さんとうちの家族
◆大阪市北区・天満駅近くにある「シンプルハウス」さんが
とても素敵な稽古場兼住居を作ってくださいました。(下記URLをクリック)
https://www.simplehouse.co.jp/works/20200923-4/
ぼくが師匠のもとに入門した二十歳のとき、
師匠からまず言われたのは「評判」ということだった。
「どれだけええ落語ができても
評判の悪いやつはアカン」
挨拶や言葉遣いは言うに及ばず、
終演後も弁当やケータリングの食べかす、湯飲みなどが散乱したまま
楽屋を後にするなどもってのほか。
師匠の鞄持ちでついていき、急いで次の現場に向かわねばならないときも、
「わしの着物は自分で畳むから、
楽屋をどないかせい!」
と叱られたこともあった。
“立つ鳥、後を濁さず”である。
マナーやコンプライアンスのセミナー講師として
活躍中の知人がこんなことを言っていた。
「昔は先輩から後輩に教えていた社会人としての常識も、
今は言い方ややり方をひとつ間違うとパワハラにとられかねない。
それで、部外者である我々にその役目が回ってきたのかもしれません」
なるほど、落語界の師匠と弟子の関係でもパワハラ訴訟が起きる昨今、
「評判のいい所作」を教えられ・身につける機会はなかなか無いのかもしれない。
…それにしても、例のパワハラマンション。
営業マンが名刺をばらまくよりも、
まず現場の再教育から始めた方がよっぽど有益やのになぁ。(了)
※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。
◆花團治公式サイトはここをクリック!

古い空き家が解体されるやいなや、
ひょろっと細長いワンルームマンションが建つ。
背景には、二駅先への大学キャンパス誘致の決定と、
2025年開催の大阪万博があるようだ。
確かにここは万博会場へ通うに便利な場所なので、
建設従事者やパビリオン関係者の常駐・宿泊先にもってこいだ。
まだまだマンションが必要らしく、
ご近所さんの元にも土地売却の話が頻繁に持ち込まれているらしい。
「わたし、このような者ですが…」
ビシッと決めたスーツ姿で、大手不動産会社の名刺を差し出す営業マン。
「今、あちらのマンションを建設中でして…」
これを聞くなり、ご近所さんははっきり断ったという。
「おたくにだけは絶対売りまへん!」
ご近所さんが拒絶した理由、
それは建設中のマンションの施工業者のマナーにあった。
例えば、現場の前を通るたび聞こえてくる罵倒の声。
「おいこらオッサン!
お前、何年この仕事をやっとんねん!
もう引退したらどうや!」

……現場のミスは命取りになるだろうから
口調がキツクなるのも当然かもしれない。
とはいえ、あまりにも酷い言いぐさ。
怒鳴っているのは2~30代の現場責任者らしき兄ちゃんで、
怒鳴られているほうは初老の作業員。
あまりに頻繁に聞こえてくるので、
いつしか近隣ではパワハラマンションと呼ばれるようになった。
それに加え、ゴミ処理の雑さ。
小学校や幼稚園にも程近い現場の前には、
いつも無造作にコンクリートとプラスチックの混在した瓦礫、段ボールなどが
無造作に積まれていて、いつ崩れて事故につながってもおかしくない。
もちろんそんな建築現場ばかりではなく、
そこから百メートル離れたところの別の施工業者の現場では、
いつもゴミが整理整頓されていて、どの作業員も礼儀正しい。
「あっちのマンションの会社やったら考えてみてもええけどな」とは
件のご近所さんの弁。
施工業者のマナーが、新規マンション建設のチャンスを不意にしたというわけだ。

筆者(桂花團治)も昨年に還暦、芸歴40年を迎えました。(撮影:坂東剛志)
住宅密集地に住む以上、工事の騒音は致し方ない。
我が家も数年前に大規模なリノベーションを行い、
近隣の方々にかなりご迷惑をお掛けした。
担当してくれた施工業者はご近所へのご挨拶を丁寧に行うだけでなく、
日々のきめ細やかな掃除、そして喫煙時は少し離れた指定の場所まで足を運ぶ、
などしっかりマニュアル化されていた。
「徹底してますなぁ」とぼくが声を掛けると、
「わたしら工事が終わったら次の現場ですけど、
森さん(ぼくの本名)はこれからもずっとですから…」と
リノベーション専門業者だからこその
「住み続ける人」への気遣いにあふれていた。
現に、その様子を目にした人から「うちも紹介してほしい」という言葉をいただいた。

我が家を担当してくれたスタッフの皆さんとうちの家族
◆大阪市北区・天満駅近くにある「シンプルハウス」さんが
とても素敵な稽古場兼住居を作ってくださいました。(下記URLをクリック)
https://www.simplehouse.co.jp/works/20200923-4/
ぼくが師匠のもとに入門した二十歳のとき、
師匠からまず言われたのは「評判」ということだった。
「どれだけええ落語ができても
評判の悪いやつはアカン」
挨拶や言葉遣いは言うに及ばず、
終演後も弁当やケータリングの食べかす、湯飲みなどが散乱したまま
楽屋を後にするなどもってのほか。
師匠の鞄持ちでついていき、急いで次の現場に向かわねばならないときも、
「わしの着物は自分で畳むから、
楽屋をどないかせい!」
と叱られたこともあった。
“立つ鳥、後を濁さず”である。
マナーやコンプライアンスのセミナー講師として
活躍中の知人がこんなことを言っていた。
「昔は先輩から後輩に教えていた社会人としての常識も、
今は言い方ややり方をひとつ間違うとパワハラにとられかねない。
それで、部外者である我々にその役目が回ってきたのかもしれません」
なるほど、落語界の師匠と弟子の関係でもパワハラ訴訟が起きる昨今、
「評判のいい所作」を教えられ・身につける機会はなかなか無いのかもしれない。
…それにしても、例のパワハラマンション。
営業マンが名刺をばらまくよりも、
まず現場の再教育から始めた方がよっぽど有益やのになぁ。(了)
※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。
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