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279.叱るよりも、叱られたい~笑福亭仁勇兄を偲んで~

先日、スーパーで「仁勇」という日本酒を見つけた。
「じんゆう」と読むが、
思わず6年前に亡くなった笑福亭仁勇(にゆう)兄を思い出した。


仁勇兄はぼくより四つ年上で、高校の落語研究会の先輩でもある。
ぼくが落語家になるときも、真っ先に相談したのが仁勇兄だった。
以来、落語家になってからも何かにつけ、兄に報告した。

「弟子にしてもらいました」
「初高座が決まりました」
「師匠をしくじりました」

どんなことでもいつも穏やかに応えてくれた。
それはお小言の時も同じだった。
淡々とぼくのイケナイ点を示唆してくれた。

今思えば、ぼくは仁勇兄さんに「叱られたかった」のかもしれない。

叱られるのを承知で仁勇兄さんには何でも打ち明けてしまい、
案の定、「あぁやっぱり叱られた」
そこにはなんとも言えない喜びがあった。

仁勇兄と400
笑福亭仁勇兄と(2006年10月、堺おたび寄席の楽屋で)

「叱られて嬉しい」という感覚は師匠(先代春蝶)に対しても同じだった。
弟子にしてもらってすぐの頃は
師匠もぼくに対してまるで腫物を触るかのようにどこかよそよそしかった。

「こいつは打たれ強いやつか否か」
ぼくの資質を測っていたのかもしれない。

ぼくもまた弟子になったものの、まだその実感がわいていなかった。
兄弟子たちが師匠と談笑する姿を見て羨ましくて仕方がなかった。

だから、入門して十日ほど経ったある日、師匠に初めて怒鳴られた時、
ぼくはようやくその溝が埋められたような気がして
思わず満面の笑みを返してしまった。
もちろん、そこへも第二の爆弾が落ちた。
「何を笑ってんねん!」

しかし、師匠に怒鳴られたのはその後も数回のみで、
普段は実に穏やかな叱り方だった。

ぼくが叱られるのを覚悟で正座してる前に立ち、
まず「わかってるか?」と声を掛ける。
それから「言うてみぃ」と自ら反省点を述べさせ、
今後のどう努めるかまで発表させた。
そして最後に「次はないぞ」とポソッとつぶやいて向こうに去っていった。

「コイツは頭ごなしに叱っても無駄だ。
自分の頭で考えさせて、
改善策も自分で見つけさせなければ」

という判断だったのかもしれない。


春蝶の家族と共に
筆者の内弟子時代、師匠の家族と共に


一方、仁勇兄はというと、ぼくと一緒に考えながら諭すという感じだった。
「蝶六(ぼくの前名)はどうしたいねん?」と優しく問いかけながら、
「そうやなぁ」「なるほどなぁ」、あるいは「そうかなぁ」。

極力ぼくに喋らせながら時おり私見を挟んでぼくをたしなめた。
師匠と仁勇兄、双方に共通しているのは、
感情にまかせて怒鳴り散らすということがなかったということだ。

いつしかぼくを叱る人はいなくなった。
それだけぼくも歳を重ねたということだ。
そればかりか、立場上ぼくが後輩をたしなければいけないこともある。
こちらも意を決し「あの件やけどな」と切り出すと、
「あぁ、あれですね。はいはいはい…」と
まるで昭和のいるこいるの漫才のごとく、
こちらの言葉をさえぎりながら逃げるような態度を取る後輩もいる。

桜塚の落語家400
府立桜塚高等学校出身の落語家(左手手前から時計回りに、
桂雀五郎、笑福亭仁勇、四代目桂春團治(当時・春之輔)、筆者)




…とここまで書いて思い出したが、
ぼくも仁勇兄から一度だけとてもきつく叱られたことがあった。
その時言われたのは「人の話は最後まで聞け!」だった。

この後輩と向き合っていると、まるであの頃の自分を見るように思えた。
あの時、仁勇兄はしっかりぼくをたしなめてくれたが、
ぼくはもう叱る気力を失い萎えてしまった。
パワハラで訴えられるのもコワイし、「面倒くさい先輩」と嫌われるのもイヤだ。
改めて仁勇兄の存在の大きさを思い知るばかりだ。


この原稿を書いている二週間後の
12月16日が仁勇兄の命日。享年59だった。

この日はスーパーで仕入れた「仁勇」で献杯するつもりでいる。

純米吟醸仁勇400


叱ってくれる人が一人減り、二人減り…、
寂しいことやなぁ…としんみりしていると、
「アンタ、また靴下を脱ぎ散らかして!」とヨメはんの怒声が。
一番怖いのが居った!大事にせなあかんなぁ。


※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。



fc国立文楽劇場、令和6年、演芸場_convert_20231209181627


fc大須演芸場2024年2月_convert_20231209182037_convert_20231209182103

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Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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