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281.その男、身軽で気軽で一本気~住所不定の落語家・立川こしら~

「旅するように暮らしたい」
まるでファッション誌のキャッチコピーだが、そう思ったことはないだろうか。
家など持たずに全国を旅しながら仕事ができたらどんなに楽しいだろう。
しかし、ぼくにはそれを実行に移す気力も体力も知恵も勇気もない。

が、ここに東西通じて唯一「住所不定」の落語家がいる。
つまり定住の地を持たず放浪しながら公演を続けている。

彼の名は立川こしら
1996年、立川談志門下の志らくに弟子入り、2011年に真打ち、脂ののった48歳だ。
10代の頃はロックバンドを組んだり、劇団を渡り歩いていたらしい。
そんな彼とぼくは名古屋の定席小屋「大須演芸場」で初めて一緒になった。

fc大須演芸場前_convert_20240221100558
名古屋・大須観音近くにある「大須演芸場」。
東京・名古屋・大阪の芸人が一同に見られる、日本で唯一の定席小屋だ。


年中旅暮らしだけあって余分なものは一切持たず、
必要な荷物も最小限度に抑えるためいろんな工夫がされていた。
なかでも着物は落語家にとって必須アイテムだが、
彼の着物は超極薄の生地(つまりペラペラ)で丈は膝ぐらいまでしかなく
袴を着けて高座に上がる。
丈が短いことで容量の問題だけでなく洗濯の乾きもずいぶん変わってくる。
その着物もレンタルコンテナに保管している。

fc大須演芸場こしら着物_convert_20240221100528
着替え中の立川こしら。鏡前はぼくの隣だった。

実は前から彼の噂を少しは耳にしていた。
「仮想通貨やITに滅法詳しいらしい」
「一時期休業して養蜂に勤しんでいたらしい」
「家がないらしい」…。

彼の著書『その落語家、住所不定。』(光文社新書)を読むと、
「かつては風呂無しのアパートから始まり少しずついい物件へと移り住んだ。
部屋には集めたフィギュアやバイクの修理道具…。

しかし、ある時目が覚めた。車やマンションは必要なのか?
なぜ窮屈なブランドもののジャケットを着ているのか?
…その原因は見栄だと気づいた。
それらを身にまとうことで
自分の成長を誇示しようとしていただけだ。
そもそも人を見た目で判断するようなヤツとは付き合いたくないと思っていたのに、
いつの間にか自分もそちらに取り込まれようとしていた」

…そこには彼が「住所不定」に至る過程が綴られていた。
彼は漠然とした価値観から抜け出すために身の回りから無駄を全て無くし、
ついに定住する場所さえそぎ落としてしまったのだ。

fc大須演芸場、立川こしらと_convert_20240221100409
立川こしら(向かって左)と筆者



彼は今感じたことをそのまま高座で笑いに昇華させる才に長けていた。
同時に彼は実に繊細な男でもあった。
高座で前に出た演者を話題にしていると、
そこへ当の本人が飛び出してさらに盛り上がるということが往々にしてあるが、
自分が演じている最中に他の演者が乱入することを嫌がる演者も多い。

ぼくはこしらの反応見たさに、
マクラで彼の衣装のことから住所不定のことまで散々にいじってやった。
すると案の定、絶妙の間でぼくの高座に割って入ってきた。

「もう、やめてくださいよ~!」と困った表情で苦情を言うこしらにお客は大喜び。
お約束通りというやつだ。
楽屋に戻ると、
「師匠がどういうスタンスの方かをずっと測ってました」と
人懐っこい笑顔で待っていた。

fc大須演芸場大入り袋_convert_20240221100505


最終日、こしらファンだという女性に呼び出され、
「こしらさんが伸び伸び演じていて嬉しかったです。師匠のおかげです」と礼を言われた。

こしらにとって初めての定席小屋出演。
「あれしちゃダメ」「これしちゃダメ」と
先輩から定席小屋での不文律を押し付けられるのではと心配していたのだろう。

日々のあれこれをYouTubeやSNSで日記のように発信するこしら。
彼のファンはまるで腕白な息子を見守る保護者のようでもあった。

fc大須演芸場打ち上げ_convert_20240221100437


初日には「楽屋でカメラを回しても大丈夫ですか?」という打診があった。
「どんどんやってんか!」と応えたおかげで
うかつに鼻くそすらホジれない窮屈な日々を強いられてしまったが、
これほど刺激をたっぷりもらえて楽しい寄席暮らしもなかった。

帰阪してしばらくした後、贔屓客からある動画の存在を教わった。
「立川こしら・花團治」で検索するとすぐに見つかる。
その動画を見て、「これは一本取られた」と苦笑いするしかなかった。

「立川こしらのYouTube」花團治特集はこちらをクリック!

ホンマに面倒くさくてカワイイ男だ。(了)


※この原稿は、熊本の(株)リフティングブレーンが発行する
月刊「リフブレ通信」に連載中のコラム「落語の教え」のために書き下ろしたものです。





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◆花團治の出演情報はこちらをクリック!



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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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