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47.密息2~日本のアンデルセン~

今回は、前項「46.密息」と内容がかぶりますが、
熊本県の人材派遣会社「リフティングブレーン」社様の発行する
「リフブレ通信」に寄稿するために加筆・編集したものです。 



 「平常、二時間でも三時間でも喋り続けて平気な男が、
  演壇に立つと頭の先からまるで絞り出すような声を出す。
  普段、落ち着いて話される方が、
  人前では何故に馬鹿に甲高くなってキーキー声を出すのか。
  それは自己の呼吸を調節する練習をしておらぬからである。
  演壇に上がると皆の顔が見える。
  フラフラして血液の循環が激しくなる。
  だんだんと呼吸が速くなって喉が縺れる。
  首を伸ばすようになったら人間でも馬でも到底駄目である」。


これは久留島武彦『童話術講話 (1973年) (青少年文化シリーズ)』の一部を
要約したものである。
久留島武彦は、明治7年、大分県玖珠町の生まれ。
童話の口演行脚で童話振興に貢献したことで知られている。
大正13年にはラジオで初の童話放送を行い、
同年デンマークで開かれた世界ジャンボリーに
日本派遣団副団長として参加した折、
アンデルセンの生家や墓を訪れ、
あまりの荒廃ぶりから復権運動に火をつけた。
それで「日本のアンデルセン」とも呼ばれている。

ぼくが「久留島武彦」の名前を知ったのはついこの先日のこと。
奈良県大和郡山であるパーティーに出席した。
ここは『古事記』を編纂した「稗田阿礼」ゆかりの地。
たまたまそこに居合わせた市長とぼくは
「稗田阿礼」から「語り部」の話題になった。
それで市長が教えて下さったのが「久留島武彦」のことである。

実は最近、ぼくは「密息」にはまっていてそのことも市長に話したのだが、
そこから「久留島武彦」に繋がった。
「密息」は中村明一著『「密息」で身体が変わる (新潮選書)』に詳しく、
以下のように紹介されている。

   「腰を落とし(骨盤を後ろに倒し)た姿勢をとり、
   腹は吸うときも吐くときもやや張り出したまま保ち、
   どこにも力を入れず、身体を動かすことなく行う深い呼吸。
   外側の筋肉でなく深層筋を用い、
   横隔膜だけを上下することによって行うこの呼吸法では、
   一度の呼気量・吸気量が非常に大きくなり、
   身体は安定性と静かさを保つことができ、
   精神面では集中力が高まり、同時に自由な開放感を感じる」。



中村氏は落語家の坐りの型についても触れていて
立川談志師匠を絶賛している。
その場の状況に同化する力量、間の取り具合は
他の落語家と比べても断トツで、
これは姿勢から見ても密息を上手く使っていると説明する。
試しにぼくも同じように骨盤を倒してネタを繰ってみた。
確かにどこか声の出方が全く違ってくる。
少し前、舞台袖である後輩の高座を聞いていると
ずいぶんといい出来がよかったので少し尋ねたことがある。

するとやはり、彼もまた姿勢の矯正がその要因だった。
ところで、久留島武彦先生は姿勢についてこのように述べている。


    「壇上生活をする者は、
    心持をなるべく下腹の方へ吸い込むように呼吸することが必要である。
    その呼吸の調節は身の構えが肝心で、
    例えば、テーブルに手をついた時の喉の位置は呼吸がしにくくなる。
    身体が前に倒れると顔は自然に上に向く。
    それは懇願的な姿勢となる。
    反対に手をつかずに立ち、軽く身を引いて顎も引いたとすれば、
    いかにも地歩を占めて堂々たる何か教えるように思われる。
    自分が聞くものの方に引きつけられてはならぬ、
    我が方に聞く者を引きつけることが大事である
」。


 以前にも触れた「太陽と北風」の話にも似ている。
「従わせる」か「慕われる」か。
お稽古事の世界ではよく人格云々といったことが問われる。
これには作品の解釈を通してということもあろうが、
おそらく呼吸や姿勢といったことが大いに関係していよう。
自己の呼吸をいかに調節するか。
息の浅い者は相手に合わせることなどできない。
一緒にいてどこか落ち着かない人というのは得てして呼吸が浅かったりする。

日舞、謡曲、詩吟、尺八、三味線、剣道、柔道・・・・・・
全て「息の詰め開き=呼吸の調整」が肝心である。
落語も勿論そのひとつだが、

その前に、まずぼく自身が手本にならなければならない。(了)
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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

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