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4.笑わさん稽古

役者や声優を目指す若者が集まる専門スクールに出講している。
毎年、最初の授業で決まって言うのはこんな事だ。
「私の授業では毎回同じ台詞の繰り返しばかり行います。
とてもつまらないと思うかも知れません。
でも、信じてついてきてくれたら必ずいい結果を生みます。
それは頭で得るものでなく身体で感じられることです」

そのつまらないものとは、
落語家の多くが最初に稽古するという旅ネタ「東の旅・伊勢参宮は神の賑わい」
の発端部分で我々落語家は「叩き」と呼んでいる。

見台と呼ばれる小机を小拍子と張り扇でパチパチ叩き、
緩急・高低・強弱をつけながらリズムよく口上を述べていく。
笑う箇所が極めて少ないのも特徴のひとつ。

私は稽古をつけてもらった際のこんな言葉がとても印象に残っている。
「これは笑わさんように喋る稽古やで」。
なまじ笑いの多い咄から稽古すると
リズムの定まっていない初心者は
つい笑わそうという気持ちばかりが勝ってしまいリズムも狂ってしまう。

カラオケの席でド演歌を自己陶酔して
その曲のメロディーからひどく逸脱しているおじさんを時々見かけるが
あんな感じである。
それで最初はあえて笑いが少ない、
かつテンポのいい咄を稽古しながら
身体の中にメトロノームのようなものを植え込むのである。

落語を演じるうえでまず大切なものはリズムとメロディー。
笑わせようという気持ちを捨てなければならない。
 スクールでの稽古も落語家同様に口移しである。

私と同じようにできるだけ真似をしながら台詞を繰り返してもらう。
教室の堅い床に座布団も敷かず正座で行う。
当初は十分間も持たなかった正座も夏休みを前にする頃には小一時間が平気になる。

「君らは最初の頃、正座なんて全くできなかったけど、
今ではどうや。かれこれもう1時間ぐらい経つで」
こういう目に見える変化は学生たちにしても大変嬉しく感じられるようだ。

何かを克服する事でもっと頑張ろうという気にもなる。
強制も時には必要だ。何といっても正座での稽古は姿勢にも影響する。
腹が据わる。丹田の意識が備わる。姿勢の善し悪しが声の出をも左右し、
顔つきまで凛としてくる。また、「叩き」によって咄のリズムやメロディーはもとより話し言葉の句読点、声の詰め開き(話の呼吸法)が身につく。


 現在、卒業生の数人が我が家の稽古場にも通ってくるようになった。
(ホームページhttp://nigiwaiya.justhpbs.jp/を参照)
「叩き」はまるでお念仏やお題目のようなものである。
実は稽古嫌いでサボり症の私も彼らのおかげで
なかなか休めないのが現実である。
今日もまた彼らと共に笑わせる為の笑わさん稽古に励むのである。(了)
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蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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