79.天ぷらと落語 繁昌亭落語家入門講座5
ダイアリー > 繁昌亭落語家入門講座 - 2013年06月06日 (木)
当代随一の天ぷら職人、「みかわ」主人の早乙女哲哉氏は、
雑誌のインタビューでこのように語っている。
「自分にしていることを具体的に言葉で説明できなければ、
今日は調子がよかった、悪かったという話で終わってしまう」
「原理を認識していれば、魚のクセを取ったり、
衣をいかにつければよいかということが、
自分自身で把握できるようになります」
「理論はよく分からないが、
油の中に入れていれば勝手に揚がるなどと思っていると、
自分から何かを仕掛けていくことなど不可能で、
経験が蓄積されていきません」
月刊『致知』 より
ところで、この日は朝から「繁昌亭落語家入門講座」13期5日目。

米輔師匠は、いつもの9時7分にご到着。
9時30分、主任講師である、桂米輔師匠の模範演技が始まる。

高座で模範演技中の米輔師
「ここはですね、背中をこのような形にもっていって、
で、このとき、このようにしますと~」
米輔師匠は、模範演技と、よくありがちな悪い例の、
両方を示しつつ、指南を続けていく。
役割とはいえ、よくもまあ、
あれだけ自分の所作を細かく分析しつつ、咄を進めていけるものだ。
講座のあとは、楽屋にて米輔師匠としばしの談笑。
「うちの師匠ね、あそこまで細かく教えてくれはりませんでした」
「そら、うちのおやっさんかて、ここまではなあ、
……基本は”見て盗め”やしなあ。
”理屈はええから、わしの通り、
そっくりに真似んかい”とか……」
「やっぱり、どこの師匠も一緒でんなあ」
「そらそうや」
しかし、ここでは、
落語家の修行や稽古と違い、2週間に一度の集中講座。
それなりの工夫も必要である。
米朝師匠の教えに、さらに分析を加えつつ、かなり噛み砕いて、
万人にも分かりやすく、具体的に平易に示していく。
どのように言語化するか。
このような「入門講座」の場合、「見て盗め」だけでは勤まらない。
米輔師ならではの指南に、このところぼくはすっかり心酔している。
ところで、冒頭に紹介した早乙女氏は、
インタビュー記事でこうもおっしゃっている。
「私のところに、料理人志望の若い子たちがよく訪ねてきます。
寿司屋でも西洋料理屋でも、どこか紹介して下さいって。
私はいくらでも紹介はしますが、その前に必ず言って聞かせます。
あんたたちは仕事を覚えに行くんじゃないよ。
その店へ”我慢”を覚えに行くんだ。
我慢を覚えたら、もうその時にはちゃんと仕事も覚えているから。
店のオヤジさんが気分よく寿司が握れる、快適に料理ができる、
あいつの掃除は凄いなと関心される。
そうやってオヤジさんにとって気分のいい掃除ができるか。
気持ちのいい皿洗いができるか。
それができた時には、オヤジさんと同じリズムで
仕事ができているということで、
オヤジさんを超える気配りがあなたにあるという証拠だ」
月刊『致知』 より
……ぼくはふと、自身の内弟子時代のことを思い出した。
ぼくは、師匠の自宅に3年間の住み込みだった。

ぼくも、繁昌亭の前でパチリ。撮影は、桂鞠輔。
「掃除がちゃんとできたら、落語も一人前になる」
と、故・二代目春蝶。
当時は、全く、その意味が分かっていなかったが、
最近になって、ようやく少しは分かるような気がしてきた。
「わし一人の気が読めずして、
200人や300人のお客の気が読めるわけない」
とも。
何度も申し上げるが、「繁昌亭講座」は2週間に一度の集中講座。
落語家の修行や稽古のようにはいかない。
ここで伝えられることには限りがある。
でも、しかし……
受講生お一人お一人が、
それぞれのフィールドを持っておられる。
天ぷら屋や、落語家でなくとも、似たようなことはいくらでもある。
各人がそれぞれのフィールドで培ってきたもの。
それが、どう生かされるか。
社会人落語の面白さって、きっとこういうところにあるんでしょう。
落語家の真似ごとで終わらない。
ここが面白い。本当に面白い。実に楽しい。
真似るうちにも、個性は自然としっかり、滲み出てくる。
個性って、つくるもんじゃなかったのね。
「あげる天ぷら・さげる落語」
「衣の天ぷら・羽織の落語」
「口に天ぷら・口から落語」
ちょっとの違いや!!
「にから出た差異!!」
桂蝶六のホームページはこちらをクリック
雑誌のインタビューでこのように語っている。
「自分にしていることを具体的に言葉で説明できなければ、
今日は調子がよかった、悪かったという話で終わってしまう」
「原理を認識していれば、魚のクセを取ったり、
衣をいかにつければよいかということが、
自分自身で把握できるようになります」
「理論はよく分からないが、
油の中に入れていれば勝手に揚がるなどと思っていると、
自分から何かを仕掛けていくことなど不可能で、
経験が蓄積されていきません」
月刊『致知』 より
ところで、この日は朝から「繁昌亭落語家入門講座」13期5日目。

米輔師匠は、いつもの9時7分にご到着。
9時30分、主任講師である、桂米輔師匠の模範演技が始まる。

高座で模範演技中の米輔師
「ここはですね、背中をこのような形にもっていって、
で、このとき、このようにしますと~」
米輔師匠は、模範演技と、よくありがちな悪い例の、
両方を示しつつ、指南を続けていく。
役割とはいえ、よくもまあ、
あれだけ自分の所作を細かく分析しつつ、咄を進めていけるものだ。
講座のあとは、楽屋にて米輔師匠としばしの談笑。
「うちの師匠ね、あそこまで細かく教えてくれはりませんでした」
「そら、うちのおやっさんかて、ここまではなあ、
……基本は”見て盗め”やしなあ。
”理屈はええから、わしの通り、
そっくりに真似んかい”とか……」
「やっぱり、どこの師匠も一緒でんなあ」
「そらそうや」
しかし、ここでは、
落語家の修行や稽古と違い、2週間に一度の集中講座。
それなりの工夫も必要である。
米朝師匠の教えに、さらに分析を加えつつ、かなり噛み砕いて、
万人にも分かりやすく、具体的に平易に示していく。
どのように言語化するか。
このような「入門講座」の場合、「見て盗め」だけでは勤まらない。
米輔師ならではの指南に、このところぼくはすっかり心酔している。
ところで、冒頭に紹介した早乙女氏は、
インタビュー記事でこうもおっしゃっている。
「私のところに、料理人志望の若い子たちがよく訪ねてきます。
寿司屋でも西洋料理屋でも、どこか紹介して下さいって。
私はいくらでも紹介はしますが、その前に必ず言って聞かせます。
あんたたちは仕事を覚えに行くんじゃないよ。
その店へ”我慢”を覚えに行くんだ。
我慢を覚えたら、もうその時にはちゃんと仕事も覚えているから。
店のオヤジさんが気分よく寿司が握れる、快適に料理ができる、
あいつの掃除は凄いなと関心される。
そうやってオヤジさんにとって気分のいい掃除ができるか。
気持ちのいい皿洗いができるか。
それができた時には、オヤジさんと同じリズムで
仕事ができているということで、
オヤジさんを超える気配りがあなたにあるという証拠だ」
月刊『致知』 より
……ぼくはふと、自身の内弟子時代のことを思い出した。
ぼくは、師匠の自宅に3年間の住み込みだった。

ぼくも、繁昌亭の前でパチリ。撮影は、桂鞠輔。
「掃除がちゃんとできたら、落語も一人前になる」
と、故・二代目春蝶。
当時は、全く、その意味が分かっていなかったが、
最近になって、ようやく少しは分かるような気がしてきた。
「わし一人の気が読めずして、
200人や300人のお客の気が読めるわけない」
とも。
何度も申し上げるが、「繁昌亭講座」は2週間に一度の集中講座。
落語家の修行や稽古のようにはいかない。
ここで伝えられることには限りがある。
でも、しかし……
受講生お一人お一人が、
それぞれのフィールドを持っておられる。
天ぷら屋や、落語家でなくとも、似たようなことはいくらでもある。
各人がそれぞれのフィールドで培ってきたもの。
それが、どう生かされるか。
社会人落語の面白さって、きっとこういうところにあるんでしょう。
落語家の真似ごとで終わらない。
ここが面白い。本当に面白い。実に楽しい。
真似るうちにも、個性は自然としっかり、滲み出てくる。
個性って、つくるもんじゃなかったのね。
「あげる天ぷら・さげる落語」
「衣の天ぷら・羽織の落語」
「口に天ぷら・口から落語」
ちょっとの違いや!!
「にから出た差異!!」
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