81.阿呆に寄せる眼差し 繁昌亭落語家入門講座6
ダイアリー > 繁昌亭落語家入門講座 - 2013年06月20日 (木)
繁昌亭落語家入門講座13期、6日目。
この日、ワークショップを終え楽屋に戻ると、
笑福亭鶴二くんがニコニコと満面の笑顔で出迎えてくれた。
「……お、久しぶり!…今日は何でんねん?」
「米輔師匠や蝶六兄さんにわざわざ会いに来ましてん!」
嘘!全くの大嘘である!!
彼は、平気でこういうことを言う。
繁昌亭入門講座が11時30分までで、昼席は13時から。
ちょっと早い楽屋入りではあったが、
彼はこの日、繁昌亭昼席の出番であった。
それにしても、彼ほどこんなべんちゃらが絵になる男もいまい。
勿論、これは褒め言葉。つまり、嫌みがない。
彼は、憎めない男。落語でいうなら喜六。

ずいぶん前になるが、このブログで、
尊敬する後輩として話題にしたのは、実はこれ、鶴二くんのことである。
「姿勢が変わって、ますます芸が映えるようになった」という話だった。
(46.密息)
「あ、せや。鶴二に会うたら、聞こうと思てたことがあんねん」
「何でっしゃろか?」
さっと、彼は姿勢を正した。
「うん、いやあの、鶴二の姿勢が変わったという話や。
前はずいぶん猫背で喋ってたやろ」
「そうですねん。背筋だけやのうて、首が前にこう出てね。
不細工でっしゃろ。自分でもえらい悩んでましてん」
「そういやあ、鶴二の前世は確か、ニワトリやったかいなあ」
「そうそう、今も、もみ殻を見るとつい……」
それからしばし、鶴二くんの「ニワトリ形態模写」を楽しんだ。
やはり、落語家同士の会話は、こういう脱線があってこそ。
お客がいようがいまいが、そんなことは関係ない。
「……ほいで兄さん、何です?姿勢の話でしたかいな?」
「そうそう」
話を脱線させたら、自分でちゃんと元に戻す。
これ、ちょっとしたエチケットであり、マナー。
「あのね、兄さん、ぼく、玉之助さん(太神楽曲芸師)に教わったんです。
例えば、ここにある、このペットボトルのお茶。
これをね、そのまま飲まずに、湯呑に移してから飲むんです。
……ね、こうして…姿勢、良うなるでしょ?」
なるほど試してみると、自然にそうなる。
彼はずっとこれを続けたらしい。
そこに米輔師匠も加わって、
姿勢の話から、語気、語尾の話。女性の口説き方……エトセトラ。
楽屋噺はいつもこんな調子だ。
どうでもいい話から芸談まで……さながらマインドマップ。
会話には必ず、
「軸」「流れ」「それぞれの立ち位置」というものがある。
それを外すと、
「君がそれを言うな」とか
「その話、ここでいるかい?」とか、言われることになる。
……ぼくもずいぶんそれでしくじった。
「蝶六さん、あんた、ずいぶん偉ならはったなあ」とも。
……あ~、今思い出しても、とっても怖いひとこと。。。
さて、この日の楽屋。
馬鹿話で楽屋番らを笑わせる鶴二くんの傍には、
「こいつ、しゃあないやっちゃなあ」と
それを常に笑顔で見守る米輔師匠の姿。
時折、彼をたしなめるように突っ込みを入れる米輔師匠は、
さながら大阪落語の「甚兵衛」さんといった役回り。
もちろん鶴二くんは「喜六」。
即興で描かれる「落語の世界」だ。
誰かが胴を取り、誰かがボケて、誰かが突っ込んで……
多少デリケートな話でも、ちょっとした笑いがあったり……
ところでこの日、ぼくが「入門講座」で受講生に感じたことは、
「最初に比べて、みんな表情がずいぶん柔らかくなったなあ」ということ。

この日、ぼくが担当させてもらった受講生のみなさん
ぼくは当初、受講生に対し、よくこんなことを申し上げていた。
「そんな怒り口調やったら、喜六も憎たらしそうに見えまっせ」
「喜六のキャラクターを作るのは、清八の眼差しが大きいんですわ」
「なんやこの二人、仲悪そうでんな」
言葉のキツさは、過度の緊張のせいもあったかも知れない。
でも、この日、改めて感じたのは、受講生の、
「清八のちょっとした余裕が、
喜六を魅力的にしている」という事実。
これは、先の
「鶴二くんの楽屋でのご陽気なお振る舞いと、米輔師匠の眼差し」
とも符合している。
彼に生き生きと語らせ、阿呆を演じさせたのは他でもない、
米輔師匠の「しゃあないやっちゃなあ」という愛情の眼差しであった。
阿呆の喜六を取り巻く、
ご隠居の「甚兵衛」や、兄貴分である「清八」らの了見。
彼らの「喜六」に寄せる眼差しは、そのままお客の眼差しになる。
「喜六」を立たせるのは、周囲の眼差しなのだ。
会話やコミュニティーにおける、
それぞれの役回りや、
人への優しい眼差し、会話のマナー……
落語って、本当に色んなことを学ばせてくれる。
落語を身につけて、あなたも豊かな対話ライフを!!
「口は災いのもと」ならず「賑わいのもと」でいきましょう!!
そう、豊かな「対話」から「笑い」も生まれるのです。
「対話、笑を兼ねる!」
桂蝶六のホームページ
「第13回 蝶六の会」天神祭り特集。
7月23日(火)18時30分~、天満・天神繁昌亭にて、
前売り2000円。
おかげさまでチケットの残はあと60枚ほどになりました。
ご入場は、チケットに記載されている整理番号順となります。
お早めにどうぞ。詳細は、上のホームページにて。
この日、ワークショップを終え楽屋に戻ると、
笑福亭鶴二くんがニコニコと満面の笑顔で出迎えてくれた。
「……お、久しぶり!…今日は何でんねん?」
「米輔師匠や蝶六兄さんにわざわざ会いに来ましてん!」
嘘!全くの大嘘である!!
彼は、平気でこういうことを言う。
繁昌亭入門講座が11時30分までで、昼席は13時から。
ちょっと早い楽屋入りではあったが、
彼はこの日、繁昌亭昼席の出番であった。
それにしても、彼ほどこんなべんちゃらが絵になる男もいまい。
勿論、これは褒め言葉。つまり、嫌みがない。
彼は、憎めない男。落語でいうなら喜六。

ずいぶん前になるが、このブログで、
尊敬する後輩として話題にしたのは、実はこれ、鶴二くんのことである。
「姿勢が変わって、ますます芸が映えるようになった」という話だった。
(46.密息)
「あ、せや。鶴二に会うたら、聞こうと思てたことがあんねん」
「何でっしゃろか?」
さっと、彼は姿勢を正した。
「うん、いやあの、鶴二の姿勢が変わったという話や。
前はずいぶん猫背で喋ってたやろ」
「そうですねん。背筋だけやのうて、首が前にこう出てね。
不細工でっしゃろ。自分でもえらい悩んでましてん」
「そういやあ、鶴二の前世は確か、ニワトリやったかいなあ」
「そうそう、今も、もみ殻を見るとつい……」
それからしばし、鶴二くんの「ニワトリ形態模写」を楽しんだ。
やはり、落語家同士の会話は、こういう脱線があってこそ。
お客がいようがいまいが、そんなことは関係ない。
「……ほいで兄さん、何です?姿勢の話でしたかいな?」
「そうそう」
話を脱線させたら、自分でちゃんと元に戻す。
これ、ちょっとしたエチケットであり、マナー。
「あのね、兄さん、ぼく、玉之助さん(太神楽曲芸師)に教わったんです。
例えば、ここにある、このペットボトルのお茶。
これをね、そのまま飲まずに、湯呑に移してから飲むんです。
……ね、こうして…姿勢、良うなるでしょ?」
なるほど試してみると、自然にそうなる。
彼はずっとこれを続けたらしい。
そこに米輔師匠も加わって、
姿勢の話から、語気、語尾の話。女性の口説き方……エトセトラ。
楽屋噺はいつもこんな調子だ。
どうでもいい話から芸談まで……さながらマインドマップ。
会話には必ず、
「軸」「流れ」「それぞれの立ち位置」というものがある。
それを外すと、
「君がそれを言うな」とか
「その話、ここでいるかい?」とか、言われることになる。
……ぼくもずいぶんそれでしくじった。
「蝶六さん、あんた、ずいぶん偉ならはったなあ」とも。
……あ~、今思い出しても、とっても怖いひとこと。。。
さて、この日の楽屋。
馬鹿話で楽屋番らを笑わせる鶴二くんの傍には、
「こいつ、しゃあないやっちゃなあ」と
それを常に笑顔で見守る米輔師匠の姿。
時折、彼をたしなめるように突っ込みを入れる米輔師匠は、
さながら大阪落語の「甚兵衛」さんといった役回り。
もちろん鶴二くんは「喜六」。
即興で描かれる「落語の世界」だ。
誰かが胴を取り、誰かがボケて、誰かが突っ込んで……
多少デリケートな話でも、ちょっとした笑いがあったり……
ところでこの日、ぼくが「入門講座」で受講生に感じたことは、
「最初に比べて、みんな表情がずいぶん柔らかくなったなあ」ということ。

この日、ぼくが担当させてもらった受講生のみなさん
ぼくは当初、受講生に対し、よくこんなことを申し上げていた。
「そんな怒り口調やったら、喜六も憎たらしそうに見えまっせ」
「喜六のキャラクターを作るのは、清八の眼差しが大きいんですわ」
「なんやこの二人、仲悪そうでんな」
言葉のキツさは、過度の緊張のせいもあったかも知れない。
でも、この日、改めて感じたのは、受講生の、
「清八のちょっとした余裕が、
喜六を魅力的にしている」という事実。
これは、先の
「鶴二くんの楽屋でのご陽気なお振る舞いと、米輔師匠の眼差し」
とも符合している。
彼に生き生きと語らせ、阿呆を演じさせたのは他でもない、
米輔師匠の「しゃあないやっちゃなあ」という愛情の眼差しであった。
阿呆の喜六を取り巻く、
ご隠居の「甚兵衛」や、兄貴分である「清八」らの了見。
彼らの「喜六」に寄せる眼差しは、そのままお客の眼差しになる。
「喜六」を立たせるのは、周囲の眼差しなのだ。
会話やコミュニティーにおける、
それぞれの役回りや、
人への優しい眼差し、会話のマナー……
落語って、本当に色んなことを学ばせてくれる。
落語を身につけて、あなたも豊かな対話ライフを!!
「口は災いのもと」ならず「賑わいのもと」でいきましょう!!
そう、豊かな「対話」から「笑い」も生まれるのです。
「対話、笑を兼ねる!」
桂蝶六のホームページ
「第13回 蝶六の会」天神祭り特集。
7月23日(火)18時30分~、天満・天神繁昌亭にて、
前売り2000円。
おかげさまでチケットの残はあと60枚ほどになりました。
ご入場は、チケットに記載されている整理番号順となります。
お早めにどうぞ。詳細は、上のホームページにて。
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