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84.彼が落語家になった理由 繁昌亭落語家入門講座8

「君は、何で、咄家になろうと思ったんや?」
「はい、ぼくは口下手で、
 何とかそれを克服したくて入門しました」


これは、ぼくがある弟弟子と交わした会話。

その日は、師匠宅で、ご贔屓も参加しての宴会。
鍋をつつきながら、師匠はもちろんのこと、ぼくやご贔屓さん方も
皆がそれぞれの失敗談や武勇伝を面白おかしく喋っていた。
師匠の芸談も交えながら、楽しい宴はどんどん過ぎていった。

こういう時の師匠も、ぼくは大好きだった。
自分ばかりが喋るでなく、
他人から上手く話を引き出すところなど天下一品だった。
師匠がおられる座は、いつだって誰もが盛り上がった。

でも、その時、その場で唯一、一言も発していない男がいた。
新しく弟子になったばかりの彼であった。
配膳など用事に忙しく、それどころではなかったろう。

そこで、師匠は彼にこう言った。
「お前も、もうええがな。こっちへ来て、一緒に喋ったらええがな」

でも、彼はずっと黙っていた。

「お前も何ぞ(話題は)ないのんかいな?」と師匠。

すると、彼はポツリと一言、こう漏らした。

「師匠、あの、ぼく、
人前で喋るのが一番苦手なんです」



後日、ぼくは彼と二人きりになった時、こっそり聞いてみた。
それが冒頭のやり取りである。

それからしばらくして、彼は廃業してしまったが、
ぼくは師匠の奥さんから頼まれて、何度も彼の様子を伺いにいった。
それは師匠の意志であることは判っていた。

廃業してからの彼がどうしているか、心配で仕方なかったのだ。
ある日、傍らで晩酌のお供をするぼくに、
師匠はふとこんな言葉を漏らした。

「いっぺんでも、わしの弟子になった男やで。
 心配して当たり前やろ」
 


春蝶のプロフィール


 
だから、別の道に進んだ彼が、
菓子折をもってぼくのところに挨拶に来た時には、
ぼくは真っ先に師匠に報告した。

もちろん師匠は喜んでいた。(というより、安心していた)

ぼくは、師匠のところに挨拶に行くよう促したが、
「いや、師匠に合わせる顔がないし、緊張しますから」と
頑なに、彼はそれを拒んだ。

そして、彼はぼくにこんな事を語ってくれた。

「いや、兄さんね、ぼく、
 師匠のところに入門して本当に良かったと思っています。
 普通、経験できないことを勉強させてもらったし、
 ぼく、咄家には向いていなかったけど、今の仕事にはずいぶん役だってます。
 母親からは、落語でずいぶん変わったなあって、
 ちゃんと自分の意見が言えるようになったし、
 表情が明るくなったって言われましたし、
 みんな、師匠のおかげです。兄さんから、師匠に伝えてください」
 
 
彼が落語家になった当初の目的は、
無事、達成された。

 

 
「話し方教室」の代わりに、
「咄家への入門」を薦めようというのではない。

咄家として生きていくには、
やはり「師匠に仕える」というプロセスが欠かせない。
それは、「資格」という意味ではなく、イズムであったり、
ちょっとした了見など、一番大事なことは、
師匠の側に始終ついていなきゃ判らない、ということだ。

繁昌亭講座、鞠輔
師匠、桂米輔の高座を袖から見つめる弟子、桂鞠輔

しかし、咄家にならなくとも、誰もが「落語」から多くを学べる、
というのも、これまたおおいに言えることだ。

今、あちらこちらで「落語教室」というのを見かけるようになった。

それらは、単に「趣味」という位置づけではなく、
「スキル取得のための落語」という色合いが濃い。
この傾向は、これからますます強まるだろう。

繁昌亭講座0704
この日、ぼくが担当した受講生の皆様


さて、この日、ぼくは講座の中で、
「声を前に出す」ということについて申し上げた。

ぼくも声に関して、人一倍悩んできた一人。

だから、「大きな声を出せ」とは決して言わない。

代わりに「言葉を届ける」という言い方を使う。


声がうわずったり、か細い声だったりするのは、
姿勢や気持ちに連動している。まずはそこからだ。

それに、日本語の発声は、西洋のそれとは違う。

また、いたずらに「大きな声を出そう」としても、
身体に変な緊張が走ったり、何の解決にもならないことが多く、
単に「がなってしまう」ことになりかねない。

そのことについては、また別の機会に詳しく語らせてもらおうと思うが、
一冊だけお薦めの本を紹介しておきたい。

あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント (講談社文庫)あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント (講談社文庫)
(2003/11/14)
鴻上 尚史

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俳優さんからよく「正しい発声はどうしたらいいんですか?」という
質問を受けます。すぐに僕は、「『正しい』とはどういう意味ですか」
と逆に質問します。すると、相手は、確信に満ちた顔をして「なかな
か嗄れなくて、後ろの客席まで通って、よく響く」と言います。「そ
うなればいいんですか?」と僕は答えます。「そうなることは簡単で
すよ」と付け加えるのです。あなたの友だちにコンパニオンをしてい
る女性はいませんか?彼女たちの声は、ほぼ、そういう声です。日常
からよく響きます。が、何を言われても、どこか、よそよそしいとい
う感覚を持ったことはないですか?正しい発声という考え方が間違っ
ていると思います。もちろん、嗄れなくて、よく通って、よく響く声
は、素敵です。が、そのことを最終目標にしてはいけないのです。最
終目標は、「表情のある声」です。

          『あなたを魅力的にするちょっとしたヒント』より



落語は「教室」としての歴史が浅い。
落語は「徒弟制度」という、これ以上ない教育システムで伝承されてきた。

ただ、そのぶん一般にいう「メソッド」という点においては、
演劇や朗読などのそれと比べてずいぶん遅れをとっているかも知れない。

でも、例えば、この本に書かれていることの多くは、
落語にも全く同じことが言える。

落語から「方法」を抜き出して、
それを実生活に役立てていく。


ぼく個人的には、今、それを目指している。


その真意は、是非、イシス編集学校のホームページをご覧頂きたいと思います。




でも、まずその前に、ぼくが魅力的にならなければ・・・・・・
目下、それが一番の課題である。



いくら思いをたっぷり込めてみたところで、
相手にちゃんと届かなければ意味をなさないのが、言葉。



「お口の気負いが気になりませんか?」



桂蝶六と師匠のことや、今の思いを「ライブ繁昌亭」の記事にまとめて下さいました。
是非、下をクリック願います。



桂蝶六インタビュー記事「ライブ繁昌亭」はこちらをクリック

桂蝶六のホームページ

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コメント
30: by みやぎ on 2013/07/04 at 23:44:43

ライブ繁盛亭、楽しく拝見させていただきました。
その落語会の出演者に友達がいました!ビックリしました。その当時通っていた教室からいなくなったのでどうしてるかと思っていたのですが、それ以上に進化し続けていることを知り、しかも蝶六さんという共通の先生。・・・つながってますね、これは運命でしょう。すごい。私も何かこれっていう芸をゲットしたいと奮起しました。

31: by on 2013/07/05 at 06:54:24 (コメント編集)

みやぎさん、おはようございます。ええと、出演者って?どなたでしょうか?・・・それにしても、この地球上に本当に大勢の人がいて、それで知り合えるだけでもご縁なのに、その知人同士がまた繋がっているなんて、奇縁としか言い様がありませんね。でも、よく考えてみたら、意志をもって生きている限り、当然の成り行きかも知れません。お互いの思いや行動が導いたということで、その志向性の共有を喜びたいと思います。これからもよろしく。

プロフィール

蝶六改メ三代目桂花團治

Author:蝶六改メ三代目桂花團治
落語家・蝶六改め、三代目桂花團治です。「ホームページ「桂花團治~蝶のはなみち~」も併せてご覧ください。

http://hanadanji.net/

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